カルテ608 牡牛の刑(後編) その59
「度々すまんな、ホーネル。何度も言うが、このバカ牛が……」
「毎回俺のせいにしないで! てかどう見てもあんたが悪いよ!」
「ええいしつこい! さて、もうとっくに日も落ちて寒すぎて早く家に戻らないと身体が壊死しそうなので私としてもとっととけりをつけたいのだ。というわけで、ホーネルよ、返答や如何に!?」
本格的に漆黒が地表を呑み込むのを防ぐかのように、魔封剣ハラヴェンがおぼろげに輝きながらも周囲に光の粒子をまき散らす。それは持ち主の周囲を蛍のごとく漂い、幻想的な光景を現出させた。
「「「ハハッ、ホーネル・マイロターグ、不肖の身ながらも帝国軍近衛騎士団団員復帰の王命を慎んでお受け致します! ありがとうございます、ヒュミラ団長殿!」」」
誇り高きケルベロスは、あたかも地獄の王に忠誠を誓う神話のごとく、またもや三つのこうべを深く垂れて闇が固まったような地面に擦りつけた。その瞬間、目には見えないが明らかな変化が魔獣を中心に起こり、空気が一気に清浄化されたかのようにさえその場の三人には感じられた。
「おお、受けてくれるか! やれやれ、やっとこれでこの地での我が任務はつつがなく終了したぞ! 礼を言う、二人とも!」
いつもは鉄面皮のヒベルナが、まるで花が咲いたかのように破顔し、魔剣の光を浴びながら白い歯を輝かせる。思ったよりも気を張り詰めていたのだろう。筋肉からも緊張が解け、その場にどっかりと座り込んだ。
「「「そんな、礼だなんて……それはこっちの台詞です」」」
「俺はありがたく受け取っておくぜ!」
「まったく傍若無人なミノタウロスだな、まあいい、今夜だけは許してやろう。星もきれいなことだしな」
ヒュミラは空を見上げた。氷のような空気の層を貫いて落ちてくる星辰の光は剣のように研ぎ澄まされていたが、それ故に美しかった。
「さて、早速お前たちに任務を授ける。それは、この魔封剣とも深いかかわりがあることだ」
「なんすか任務って? そんなもんちゃっちゃと片づけようぜ!」
「気楽に言うなバカ牛、我々は史上最強の怪物と戦わねばならないんだぞ……」
彼女は手にしたままのハラヴェンを天にかざす。その表情は心なしか先ほどよりも重苦しかった。




