カルテ607 牡牛の刑(後編) その58
「「「いいいいいいいんですか、自分のような罪人に恐れ多くもそのような厚遇をして頂いて!?」」」
「何だ嫌なのか? だったら別にいいが」
「「「そそそそそそのようなわけではないですが……!」」」
うろたえまくる魔獣を意地悪なニヤニヤ笑いで見つめるヒベルナだったが、コホンと咳払いを一つして真顔になった。
「ま、確かに罪人ではあるがお前の場合は脱走と言っても施設がマンティコアの暴走で半壊した直後に石化し右も左もわからなくなったという事情があるし、情緒酌量に値するので大目に見てやれというのが帝国上層部のスタンスだ。よってこの辺りをさまよっているという噂の迷子の子犬ちゃんの連れ戻し役にたまたまこの地に居た元飼い主である私が抜擢されたため、わざわざ林の奥まで足を運んだわけだが、あいにくお留守だったんで途方に暮れるも、こうしてようやく保護出来てホッとしたぞ」
そう愚痴をこぼしながらも柔らかくほほ笑むヒュミラの横顔は、あたかもダメ人間の弟に対してやれやれとため息をつきながらも愛しく思う姉のようだった。
「「「そうでしたか……! ご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません!」」」
「もうお前の謝罪は聞き飽きたからいらんわ。それよりも本当にどうするつもりだ? 断わっておくがこんな機会は二度とないぞ。もっとも愚かにも拝命を拒否する場合は遺憾ながら今一度ここでハラヴェンを振るうことになるがな。今度ばかりはお前の尻から生えていた汚い物だけで済ますわけにはいかないが」
「言い方!」
朝のやり取りが脳内にフラッシュバックしたミノタウロスはたまらず突っ込んだ。
「だからうるさいぞそこ! お前の粗末な代物もついでに切り落とすぞ!」
「そそそそそ粗末なんかじゃないわ! 馬ほどじゃないけど牛のだって結構でかいんだぞ! なあ、モーモーちゃん!?」
「ンモ?」
「雄牛に同意を求めるな駄牛!」
「「「あの、もうそこら辺で流れを元に戻した方が……」」」
再び制御不能のコント状態に陥った元上司と元部下を見かねて、現在まな板の上のコイ状態のケルベロスはストップをかけた。




