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カルテ606 牡牛の刑(後編) その57

(一体何がどうなったっていうんだ? 百戦錬磨のヒュミラ団長がよもや失敗するとも思えんが……ってこれは、血の臭い!?)


 開眼する読経の無い臆病風に吹かれたミノタウロスの鼻先に、かすかだが明らかな血臭が漂ってきた。厳冬下のため瞬時に凍りつくとは言え、出血時に大気中に放出された鉄さびのような独特な臭いの一部は、寒風に乗って虚空を漂い彼の元までたどり着いたのだ。


「ホーネル!」


 遂に意を決してケルガーが両のまなこをカッと見開いたとき、そこには切断面が凍結した黒い物体が無様に転がっていた。


「ああ、童貞パイセン、童貞のまま死んじまうなんて……童貞保存会名誉会長に就任させてやりたかった……ってやけに細長い首だなこりゃ?」


 童貞を連呼するミノタウロスは、まるでウナギのようなその物体の異常さに気づいて首を傾げた。どう見てもこれは先ほどまで彼に罵詈雑言をわめき散らしていた犬の頭とは思えなかった。


「「「童貞童貞うるさいわボケ牛! 俺はまだくたばっちゃいねえよ! 目ん玉かっぽじってよくガン見しろ! そいつは俺の尻尾だ!」」」


 闇と同化したかのような魔犬が側で吠える。確かにおっしゃる通り、凍った大地にのたくっているのは、紛れもなく先ほどまでケルベロスの尻についていた長い尾だった。


「おおっ、本当だ! 良かったなあホーネルさん! 童貞のまま死なないで!」


「「「そこかよ!?」」」


「仲良くご歓談のところ失礼するが、私を無視するなよケダモノども!」


 夜の帳を切り裂くように魔封剣ハラヴェンが淡く輝き仏頂面の持ち主を照らす。


「「「ハハッ、誠に申し訳ありません!」」」


「まっ、お前の罪はこれで許してやる、ホーネルよ。私は元々殺すつもりなぞ毛頭なかったのだ。何故ならお前たちには貴重なインヴェガ帝国の戦力としてこれからも働いてもらわないといけないのでな……私の元で」


 魔剣についた凍りかけの血を払いながら、ヒュミラは珍しく微笑を浮かべた。


「「「ええっ!? ということは……」」」


「ああ、お前もケルガーと同じく元通り軍属に復帰とし、再び帝国軍近衛騎士団団員とする!ありがたく承るが良い!」


「「「……!」」」


 あまりの望外の展開にしばし茫然自失していたケルベロスだったが、脇腹をミノタウロスの肘で小突かれ自分を取り戻した。

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