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カルテ603 牡牛の刑(後編) その54

 ヒュミラの放つ熱気は凄まじく、二体の魔獣の座り込む凍った夜の大地までもが溶岩台地のごとく感じられるほどだった。


「へいへい、わかりましたことですよ、お嬢様。なんでしたらお紅茶に搾りたての雄牛のミルクでも入れて差し上げましょうか?」


 粗忽者のミノタウロスは猪のように太い首をすくめると、減らず口を叩いた。


「馬鹿を言え! そんな変な物飲んだら腹を壊すわ!」


「えーっ、今朝は入れろって言ってたくせに……」


「あれは貴様にやる気を出させるための方便だ! これ以上つべこべ言うならまた罪人に戻すぞクソ牛!」


「ひっでえ!どんな罪だよ!?」


「「「あの、お取込み中つかぬことを申し上げますが、私の処分は一体どうなったんでしょうか……?」」」


 零下の地面に額を接触しすぎて頭痛がしてきたケルベロスが、おそるおそる元上司に尋ねる。


「うるさい今それどころじゃない!……っておおっとすまんなホーネル、ついアホ牛のペースに巻き込まれてしまったわ。さて、貴様の処遇についてだが、判決を下す前に少し話しておきたいことがある」


 彼女は魔犬の方に向き直ると、剣の柄を握る右手に力を込める。すると、心なしか、刀身に刻みつけられた紋様が宵闇の中で緑色に淡く光った。


「この剣の銘を知っているか?」


 途端にホーネルの六連の瞳が、魔の光に呼応するかのごとく紅くきらめいた。ちなみにケルガーは隣で猪首を捻って考えている。


「「「ハッ、それは天下の名刀、魔封剣が一振り、風のハラヴェンであります!」」」


「ほう、よく覚えていたな。どこぞの野良牛とは大違いだ。その通り、これは世界広しといえどこの世にたった五振りしかない、刀身に魔法を秘めた魔封剣のうちの一つだ。インヴェガ帝国内で魔封剣を所有する者はヴァルデケン皇帝陛下と私くらいのものだろう。ちなみに各々封じられた魔法の属性は異なり、例えばこの剣においては名前の通り風の魔法が込められている。そう言えばついさっきも使ったばかりだがな……」


 続けて彼女は先ほどの林の中での白狼との激しい一戦について語った。

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