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カルテ602 牡牛の刑(後編) その53

 氷の夜はいよいよ昏さと深さを増し、全ての物を凍らせんとばかりに容赦なく気温を低下させる。今宵は狼たちの遠吠えも無く、世界が終わったかのような静けさだ。粛々と首を垂れるケルガーに対し、ヒュミラは剣を構えたままの姿で厳かに告げた。


「ホーネル・マイロターグよ、私はインヴェガ帝国近衛騎士団団長として、お前に申し渡さねばならぬことがある。よいか?」


 普段の倍はある声量の発言はよく通り、白亜の崖の下は即座に帝都の法廷内のような厳粛な雰囲気に包まれる。傍らで聞いているだけのケルガーにも緊張が伝播し、ごくりとつばを飲み込んだ。


「「「ハッ!今まで愚にもつかぬ馬鹿げた行為をしでかし、誠に申し訳ありませんでした! 覚悟ならとっくに出来ております! たとえどのような処罰であろうとも謹んでお受けいたします!」」」


 凍結した地面に三つの額を擦りつけた巨犬は、まるで誇り高い貴族が女王陛下から王命を承るときの姿を彷彿させた。それは、ホーネルにひどい目に合わされたばかりでまだ多少のしこりを宿していたミノタウロスの心をも打つほどの威力があった。


「おいおい、ヒベルナさん……じゃなくてヒュミラ団長さん、なるべく重い罪を言い渡さないでやってくれよ。童貞パイセンは確かに根暗で陰険だけど、俺への恨みでトチ狂っていただけなんだし、結局今回誰も死んだわけじゃないんだしさ。どうかここは穏便にオナ禁千日間くらいの罰で許してやって……」


「「「それちょっと無理だよ!」」」


「たとえどのようなことであろうとも謹んでお受けいたしますって言ったばかりじゃねえのかよホーネルさん!?」


「「「世の中出来ることと出来ないことがあるんだよヤリチン牛め!」」」


「ええいうるさい馬鹿共! 今いいところなんだから黙ってろ! ケルガーめ、そんなに手持ち無沙汰ならとっとと罪人の釜茹での湯よりも熱いお茶を入れてこい!


 宝剣を携え仁王立ちする裁判官が口を挟まれ邪魔された怒りで夜を昼に変えるような怒気を放った。

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