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カルテ599 牡牛の刑(後編) その50

「やれやれ、どうにかこうにか間に合ったな。まったく、あんなに速く走ったのは子供の頃にオレンジをやった実家のバカ犬が脱走した時以来だぞ、フゥ」


 遂に日が没し、気の早い星々がポツリポツリと天空に顔をのぞかせ始めた頃、ヒベルナは戦いを終えたケルガーとホーネルの前で手ごろな大きさの岩にどっかと腰を下ろし、軽く息を整えていた。魔獣たちはといえば、先ほどまでの激しいいさかいは何処へやら、あたかも忠実なペットのごとく、氷結した地面に座り込み、二匹揃って神妙にしていた。


「それにしても危ないところだったぜ、ヒベルナさんよ。もうちょっとでこの駄犬パイセンのせいでせっかく母乳の出たモーモーちゃんと一緒に毒ソース添えのレアステーキ化する羽目になってたわ」


 ケルガーは傍らに寄り添う雄牛の頭を撫でてやりながら、横目で右隣のケルベロスを見やる。


「「「……」」」


 ホーネルは珍しく反論せず下を向き黙っていたが、表情は三顔とも憮然としていた。


「まあ許せ。これでも全速力で来たのだ。白狼のリーダーがここまで道案内してくれたのだがな。おそらく母屋を乗っ取った簒奪者の居場所を教えたかったのだろう。さすが賢狼と呼ばれるだけのことはある」


「すっげえな。これが本当の送り狼ってか?」


「別に変なことなどされておらんわ!」


「わかってるって! しっかしあんた、実はかなりお偉いさんなんだな。独断で俺の牡牛の刑を終了させるどころか、人事に関与するすげえ権限まで持っているとは恐れ入ったわ。あれで全てが上手くいったんで礼を言っとくぜ。伊達に人使いが荒いわけじゃねーんだな」


 ケルガーは一応ヒベルナのことを褒めてはいるものの、ズケズケと歯に衣着せず言いたい放題だった。


「フフ……」


 ヒベルナはそれに対しては謎めいたほほ笑みで返すのみだった。実際、戦闘を終了させたのは、彼女の鶴の一声だった。先ほどケルガーが、「ヒベルナ! ここだ! 母乳が出たぞ!」と、まるで井戸を掘っていたら水が出たみたいな叫びを発した直後、ヒベルナは次のように朗々と良く通る声で述べたのだった。

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