表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
622/737

カルテ592 牡牛の刑(後編) その43

「あいつ保健所って施設からただで貰ってきた雑種であんまりやる気のないやつで、散歩の時なんかすぐ疲れて道端にへたばるくせに勘が良くて、餌に混ぜた薬をすぐさまペッと吐き出すんですよー」


「そいつは弱ったもんだな。じゃあ、どうやって飲ませたんだ?」


「そうですねー、例えばパンにバターを塗ってその間に錠剤を挟んだりしてみたんですが、それでも上手いこと見つけては薬だけ食べずに残すんですよ。しまいには口を大きく開けさせてその中に手を突っ込んでなんとか入れてやりましたね。いやー、噛まれるんじゃないかってひやひやものでしたよー」


「そうか……ま、犬は臭いがする物が苦手だし、仕方がないわな。なあに、俺の方は牛だから何とかなるだろうさ」


 そうお気楽なことを言って会話を締めくくったケルガーだったが、今考えると非常に甘い考えだった。雄牛は本多家の駄犬同様お気に入りの飼料にこっそり隠して入れても口から噴き出すため、粉々にすり潰してまんべんなく混ぜたり、牛と兄弟のように親しくなって信頼関係を築いていった。幸い同じ牛頭同士のためか、それともケルガーの献身が伝わったのか、はたまた慣れたのか、次第に目論見は功を奏し、今では彼の手から渡した物は何でも口にするようになった。


 かように何事をするにも一つ一つ創意工夫が大切だと、彼はこの最果ての地で骨の髄まで叩き込まれた。


「俺は『知恵は力なり』ってことを身に染みて経験し、悟ったよ。知恵ってのはなにも学校のお勉強だけじゃねえ。日常の何気ない様々な場面に潜んでいるってわけだな。だからクソひでえ寒さとうるさい木枯らしのせいでろくすっぽ眠れない夜なんか、薄い布団を被りながら脳汁が垂れてきそうなほどギンギンに朝まで考え込んだもんさ。どうすれば牡牛の刑を無事終了させて、またヘパロシアの飲み屋で美味いエールにありつけるかってね。そして遂に俺は闇の彼方に一縷の望みを見出した」


 ケルガーは薬を潰れんばかりにぎゅっと握りしめると、その拳を先ほどの大岩目がけて突きつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ