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カルテ591 牡牛の刑(後編) その42

「何なんだよ、この床が斜めになってる家はよ!? 寒さで視覚までおかしくなったのかよ!? どういうわけだよこの欠陥建築は!?」


「そんなことも知らんのか、この無知蒙昧の鈍牛めが。いいか、この地では冬の間は地面が凍っているため、家の土台である、地中に埋まっている杭がしっかり固定されているが、夏になると暑さのため、いかに永久凍土といえども地下の比較的浅い部分は溶けるので、重さで家が次第に傾いていく。そして再び極寒の冬将軍が訪れると、その恰好のまま凍結する。これを毎年毎年繰り返すと、見事に斜め屋敷の完成、というわけだ」


「えええええええええーっ!?」


 初めて流刑地のおんぼろ小屋の中に入って驚愕するケルガーに、お目付け役のヒベルナは淡々と、かつ理路整然と、信じられない事象について説明した。


 その後も常識外れの低温によって起こる珍現象の数々のため、北国生まれのケルガーでさえ戸惑い、かつ苦労することの連続であった。何しろ火をおこそうにも薪が凍りついて中々火が着かず、ヒベルナに仕事が遅いとどやされた。


 色々試した結果、しまいには子供がお気に入りのぬいぐるみにするように抱きしめて寝たところ、朝には温かくなって着火しやすくなっており、感激したものだ。


 そして雄牛の世話も難渋を極めた。とにかく死なれては困るから、隙間風がビュウビュウ容赦なく吹き込む古い牛小屋を修繕することから始めたが、この地では素手で金属を手にした途端にくっつき引きはがすことが困難となり、下手をすれば皮膚が破れて大出血する。おかげで手袋をしながら苦心してつまむしかなく、作業はまさに牛歩のごとくしか進まなかった。


 そして白亜の建物から授かった貴重な薬も、臆病者の雄牛は最初は嫌がって中々飲もうとしなかった。


「いや~、僕も子供の頃は実家で犬を飼ってたんですが、蚊が媒介するフィラリアって寄生虫がいましてね。こいつが犬に住み着くと非常に厄介で死ぬことも多いので、予防薬を飲ませる必要があるんですが、これがまた非常に手こずりましたねー」


 本多医師は処方箋の袋を片手にこう語った。


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