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カルテ590 牡牛の刑(後編) その41

「「「ううううう嘘だ嘘だ嘘だ! こんなものはトリックだ! この詐欺師のクソ牛め!」」」


「だーからトリックでも詐欺でも魔法でもなんでもねーってば。正真正銘、まごうかたなき牛から出ているお乳だよ。てかいい加減わかれよ」


 駄々っ子をなだめるようなケルガーの言葉が、更にホーネルをイラつかせる。


「「「そんなもん信じられるかボケェ! じゃあ何故ちょうどまさに今この場でそんなものが出るんだよ!? 両親とも死んで独り暮らしの少年の家に隣に住む幼馴染の少女や年の離れた親戚の女性が急に一緒に同棲するようなもんかよ!? ご都合主義にもほどがある!」」」


「そいつは違うぜパイセン。ご都合主義ってのは何の伏線も仕込んでないのに、たまたま都合のいいことが起こるってやつのことだ。この場合は確かに偶然の要素もあるけれど、俺が苦労に苦労を重ねて艱難辛苦の末に仕込んだ種が、ようやくこの場で実ったにすぎないんだよ。ほら、俺さっきなんて言ったか覚えてる?」


「「「さっきだと? なんか赤フン締めた勇者様が洗濯中に興奮したサキュバスとやったとかなんとか……」」」


「そこじゃねえよ! ってかいつから聞いてたんだよあんた!? うがああああああああ!」


 自作の恥ずかしいサーガをこっそり傾聴されていたことに気づいたケルガーは赤フンのごとく赤面した。


「「「知るか! てかこっちこそ貴様のくだらん話のことなんかいちいち覚えとらんわ!」」」


「俺のくだらん歌は覚えているくせに……まあ、要するに俺は白亜の建物のホンダ先生と出会い、牡牛の刑についてうっかり愚痴をこぼしたところ、うまい解決法を即座に教えてくださったんだ」


 ミノタウロスはコートのポケットから錠剤の残りを取り出すと、宝物のように大事そうに手のひらにのせた。


「ほれ、見えるかよホーネルさん? こいつは抗精神病薬とか言って、内服するとなんかホルモン焼きだかなんだかよくわからんけど何かしらの作用であわよくば雄でも母乳が出るようになるかもしれないって話だ。でも、毎日毎日いくら飲ませてみても梨のつぶてで全く何一つ変わることなく、ただただ無駄に日が過ぎていくのみだった」


 語りながら、彼はこの地に来てからの苦難の日々を思い返していた。

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