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カルテ587 牡牛の刑(後編) その38

「「「ある人物、だと……?」」」


 三対の燃える瞳に一瞬だが好奇心の蔭がよぎる。魔獣の何かが刺激を受けたようだ。


「ああ、そいつはツルピカ禿げ頭で、極めてちゃらんぽらんな変人で、人をからかうことばかり考えてやがり、何ともいけ好かなくて鼻持ちならない野郎だったが、その反面あらゆる知識の総本山みたいな賢人で、奇妙奇天烈な変わったことばかり知っており、彼のご高説を賜っているうちに、次第に俺の盲が開け、眼前に未来が広がっていくのをありありと感じたもんだよ。もし可能ならばもう一度是非とも会いたいもんだぜ。と言ってもどうやら不可能らしいけどな……」


「「「……!」」」


 ケルベロスの白目の無い鬼灯のような赤目が更に見開かれる。三つの口が唱和した。


「「「もしや、その人物とは、伝説の白亜の建物に住まうホンダ先生のことか?」」」


「何ぃっ!? ひょっとしてあんたも出会ったことがあるのかよ、あの医者に!?」


 今度はケルガーの方が驚く番だった。あの恐るべき致命のハチ毒によるアナフィラキシーショックから命を救ってもらったばかりか、何人たりとも生きているうちに終了することの出来なかった牡牛の刑を攻略するすべを授けてくれた大賢者が、ある意味腐れ縁ともいえるこのクソ童貞先輩とも接点があろうとは、想像の外だったのだ。医療の奇跡とはかくも分け隔てなく平等なものなのだろうか?


「「「ああ……エリザスのかけた石化が解けて、しばらく山中をさまよっていた時に色々あって、白亜の建物に出くわしたのだ。確かにホンダ医師はかなりふざけた御仁だったが、自分も彼には恩がある」」」


 ホーネルはやや遠い目をしながら静かに語った。そこにはかつての影ながら隊を支えてきた副隊長の面影があった。


「そうか……あんたも苦労してきたんだな。俺と同じく……」


 ミノタウロスの大きな瞳からいつの間にか敵意の色が消え去り、凪いだ湖面のように澄み渡っていた。知らず知らず、彼は胸に秘めていた思いを口にしていた。


「なあ、ホーネル・マイロターグ副隊長。もうこんな無駄でバカげた戦いなんぞとっととやめて、皇帝陛下に詫び入れて、この地で俺たちと一緒に罪を償わないか?」

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