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カルテ577 牡牛の刑(後編) その28

「口だけでは何とも言えるぜホーちゃんよ。どうせさっきの唾ぶっかけ攻撃しか遠距離ないんだろ? あんなもんじゃ百年やっても俺には当たらねえよ。ほれ、やってみな?」


 しかしケルベロスは彼の下手な挑発には欠片も乗って来ず、また石像に戻ったかのようにひたすら絶壁の端で動かずにいた。どうやら3つの口をまるで固い肉でも噛んでいるかのようにずっとクチャクチャと動かしている様子だった。


「どうしたどうした? 口内炎でも出来たのか? それともこの前みたいに唾を溜め込んでいるのか?」


「「「……」」」


「だーからいくらやっても無駄だって。とっととお家に帰って優しいママンのおっぱいでもバブバブと飲んで……ってお口が3個じゃおっぱいの数が足んねえか? こりゃまた失礼……」


 ケルガーの下品な台詞を馬耳東風といった感じで受け流し、モチャモチャし続けていた魔獣だったが、ようやく時を得たのか、頰をひときわ大きく膨らませると、唇を前方に突き出した。


「「「うるさいわボケェ! 死ねぃクソ牛! アコニチウム・ミストオオオオオオオ!」」」


 あたかも呪文の詠唱のような叫びとともに、3つのすぼまった口元がそろって開かれる。若干以前の攻撃の時よりは開き方が小さめで、点のようであったが。


「ハッ、芸のない奴め!」


 再び毒の雨が降ってくるのを警戒していたミノタウロスは、ここぞとばかりに傍らの岩を素早く担ぎ上げると身を守る盾代わりとした。


「……?」


 しかしいくら待てど暮らせど予想された驟雨は一向に飛来せず、時間だけが不気味に経過していく。いぶかしく思ったケルガーは、岩の端からそっと顔を覗かせた。


「……なっ!?」


 なんと、いつの間にやら崖の上に鎮座するホーネルを中心にして紫色の濃い霧が発生しており、周囲を黄昏時のように染め上げていた。見たところ、霧はケルベロスの口先からだけではなく鼻の穴からも湯気のように湧き出していた。


「こ……これはひょっとして……毒の霧か!?」


 ケルガーの瞳が倍ほどに見開かれ、恐怖の色に満ちていく。魔の霧は折からの風に乗って徐々に下方へと広がっていった。

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