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カルテ571 牡牛の刑(後編) その21

「だから僕の作戦としては、その流刑地にいたいけな仔牛をドナドナと連れて行って一緒に飼えば、雄牛の母性本能だか父性本能だかが刺激されて母乳だか父乳だかもドバドバ出るかもしれないって寸法ですよ旦那! アイムジーニアス!」


 早口で喋る本多のつるっぱげ頭は興奮のためか汗が噴き出し、いつも以上に照り輝いていた。


「なるほどそうか! そりゃ素晴らしい名案だ……ってんなもん常識的に考えて許可が下りるわけないだろうが! アホか!?」


 本多の口八丁に丸め込まれそうになったケルガーだったが、危ういところで綻びに気づき、突っ込み役に戻った。


「ハハハ……駄目ですかね? けっこう良い方法だと思ったんですが……」


「駄目に決まっとるわ! まったく、真面目に聞いて損したぜ! まあ、そんな簡単にこの難題が解決できるとは思わなかったがな。ハァ……」


 ミノタウロスは深く溜息を吐くと、頭をかく医師を恨めし気に見つめた。どうもこやつはやる気があるのかどうか今一よくわからないし、優秀だという言い伝えも尾ひれや背びれが生えているにすぎない可能性が高い。あまり希望を持つと後で苦しむことになるのは自分自身なので、過度に期待しないのが得策だろう。


「でもあきらめるのはまだ早いですよ牛さん。他にも手はありますからねー」


 落ち込むことを知らないかのように見える医者は、診察室の机を開けてなにやらゴソゴソしていたかと思うと、白く丸い飴のような粒を一つ取り出した。


「な、なんだそれは?」


「これは抗ドーパミン薬というもので、幻覚や妄想を主症状とする統合失調症という病気の治療薬として主に用いられる薬です。統合失調症っていうのはありもしない声が聞こえたり、途方もないあり得ないことを信じ込む精神疾患ですね」


「声が聞こえる? お告げ所の巫女みたいなものか?」


 ケルガーは、ちょうどここのすぐ側にあるカルフィーナ神に仕える巫女を思い浮かべた。

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