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カルテ570 牡牛の刑(後編) その20

「ふざけんな! そりゃ単なる公開チ〇ニーじゃねえか!」


 ケルガーの返しは冴えわたり、あたかも長年コンビを組んだ相方のようだった。


「僕もそう思います。さぞかし開発されたでしょうけどね。ちなみに彼は後にその勇敢さと偉大さから『ミルクマン』とあだ名されるようになりました」


「もうええわ!」


「他にもこんな例がありますよ。今度は暑い国のアフリカってところに住むピグミーアカ族では、男性が乳児に乳首を吸わせるという習慣があるそうです。もっともこれは別に母乳が出るからではなくて、そうすることによって赤ちゃんの気持ちが落ち着くからだそうです。良い話ですよね~」


「嫌だ、もう聞きたくない! 許してくれ! モオオオオオーッ!」


 哀れな聴衆のミノタウロスは涙目になって、自分のフサフサした耳を両手で覆ったが、慣れない牛耳のせいか上手くいかなかった。


「まあまあ、そう嘆かないでください。ちゃんと母乳が出た報告もしてあげますって」


「そっちを先にやれよこの魔物野郎!」


「魔物はどっちかというとあなたの方ですよ、ケルガー・ラステットさん」


 後ろで冷静に二人を観察していたセレネースが、冷めた口調で突っ込みを入れる。


「例えば僕の世界のマレーシアって南国のダヤックフルーツコウモリは何匹ものオスから母乳が出たとの報告があります。もっとも雌よりは少量だったそうですがね」


「ほへ?」


 急に光明が差してきたような気がして、魔獣はその分厚い手を耳からどけた。


「また、僕の住んでいる日本の淡路島では二代続けて雄の山羊から母乳が出たとのことでちょっとしたニュースになっています。どちらの場合も母親から引き離されたり母親が死んだ仔山羊が悲し気に鳴くのを聞いた雄山羊から出たそうなので、感情なども関係しているのかもしれませんね」


「マジかよ……」


 ミノタウロスの耳は今や象のように広がりかねないくらいで、本多の言葉を一字一句聞き逃すまいとしていた。

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