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カルテ567 牡牛の刑(後編) その17

「キャイーンッ!」


 猛々しい雄叫びと共に強襲した白狼であったが、舌の根も乾かぬうちに情けない悲鳴を上げる羽目となった。


「フフッ、襲う相手を間違えたな、狼さんよ。レイドバトルがしたいのならば頭数を揃えてこい。もっともそれでも私の圧勝だろうがな」


 ヒベルナは愉快そうな笑みを見せながら、腰の長剣に手を伸ばす。白狼はといえば、顔を洗う猫のごとく両の前足で鼻づらをかばい、地べたにうずくまっていた。かの狼が負け犬のような無様な醜態を晒しているのには訳があった。突如顔面に鋭いつぶてを食らったからである。もっともつぶてと言っても石ころなどではない。それは振り向きざまにヒベルナの薄い唇から射出されたオレンジの種であった。先程小屋を出る際にかぶりついていた果実の種子を、未だに口腔内に隠し持っていたのだ。


「私は実家では狼並みに屈強なドーベルマンを飼っているのだが、そいつは図体がでかいくせにオレンジの匂いが大の苦手でな、近くに持っていこうものなら脱兎のごとく逃げ出すのが可笑しくて、ついからかって遊んでいたものだ」


 ヒベルナは昔を懐かしみながらも狼に対して語るのもどうかと思ったが、何しろこの北の果てはミノタウロスしか話し相手がいなかったため、たまにはいいかと考え直した。


「さて、お前たち白狼は犬の近縁である狼の一種だが、種族的な特徴として犬同様に柑橘類の刺激臭を嫌うものが多いと聞く。貴様は昨晩の鈍牛との戦いで鼻づらに傷を負った個体だな。そのため嗅覚が鈍っていたので私のしゃぶっていた物の匂いにまでは気がつかずに不用意にホイホイ近づいたのが運の尽きだったな。鼻に直接濃厚な香りを浴びせかけられれば、悶絶すること必定也、だ。このオレンジは南国のジャヌビア王国からわざわざ取り寄せたという非常に酸っぱい品種でな、お守り代わりに道中わざわざドングリを巣穴まで運ぶリスみたいに種を頬張っていた甲斐があったというものだ……」


 人語を解さぬ獣はヒベルナの講義などお構いなしにうめき声を発しもだえ苦しんでいる。だがその目は死んではおらず、憎悪の炎が燃え盛っていた。

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