カルテ563 牡牛の刑(後編) その13
2時間後。
「では、行ってくる。きちんと仕事をこなしておくのだぞ。いいか、さぼるんじゃないぞ。それと戸締りをしておけよ」
「へいへい、(小声で)どーせこんなド田舎なんかに泥棒なんざ来やしねぇけどよ、ドブス」
行儀悪くデザートのオレンジにかぶりつきながら戸口に立つヒベルナに対し、ミノタウロスは吐き捨てるように呟いた。
「ん、今何か言ったか?」
「いえ、今日はいい天気だなぁってつぶやいただけです。じゃ、お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
「……ああ」
憮然とした顔つきのヒベルナだったが、それ以上は何も話さず、ドアを閉めもせずに出かけていった。そろそろ正午が近い空はどんよりとはしているものの、ようやく鉛色から薄ねずみ色くらいには改善しており、冬場の極地にも太陽が存在していることを教えてくれた。
「やれやれ、やっとこさ消えてくれたかクソババア。このままめでたく狼のエサにでもなってくれた方が自分的には助かるんだが……んじゃ、オーガのいぬ間にちょっくらやることやるとしますか」
ケルガーは軽くあかんべーをかました後、掃除道具とスコップとツルハシを用意し彼女に続いて外に出た。日中とはいえ外気温は夜間よりかは幾分マシという程度に過ぎず、氷点下なのは変わりないので、気をつけないと鼻先や耳が凍傷にかかって腐り落ちるレベルの極寒だ。だから本当は二人以上で屋外活動し、互いの状態をチュックし合うのがベストなのだが、いない者は仕方が無いのでそう贅沢も言っていられない。もっとも魔獣形態だと寒さにもかなり強いため、この地に来て以来ケルガーはほぼミノタウロス姿のままだった。
「ま、どーせ恰好を気にするような相手もいないしな……エリザスでもいたらちったあ気をつかったかもしれんが同居人が色気の欠片もねえ男気溢れるアレじゃぁなぁ……おっといかんいかん、仕事しないとまーたどやされるわ。えーっと、まずは牛小屋の掃除とエサやりをしてと、その後は……」
ケルガーはそこで一旦言葉を切ると、眼前にそびえ立つ白い崖をにらんだ。そこは昨晩白狼たちが蚤のようにピョンピョン駆け下りてきた魔所だが、彼の口は涎を垂らしたまま、嬉しそうに口角を上げていた。
「念願の食材探しタイムだ!うおおおおおーっ!」
猛牛の唐突な雄叫びにびっくりしたのか、牛小屋の中で微かに動く音がした。




