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カルテ554 牡牛の刑(後編) その4

「えーっ、昔々のその昔、僕の国のお隣の国の中国でのお話ですが、その国は……当時はまだ前漢って呼ばれていましたが、その北にある匈奴と果てしない争いを繰り広げていました。で、ある時前漢の文官の蘇武は匈奴への使者として遥々出向くも、部下の失策に巻き込まれて捕虜となり、北海っていう北の果ての湖のほとりにオスの羊と一緒に護送されました」


「ムムッ」


 ピクッと、ミノタウロスの、人間でいうと眉の辺りが痙攣した。


「さて蘇武は、『この羊が乳を出したら国に帰してやる』と匈奴の王から無理難題を言い渡されてその地に置き去りにされました。彼はそこであきらめずに野ネズミを捕ったり草の実を食らう辛酸を舐めて生き残り、19年間もの抑留期間を耐えて何とか帰国出来ました。白髪となり弱り切ってはいましたが、その後は結構長生きしたそうですが……」


「おいおい、ちょっと待て。めでたく助かったってことは、そのオス羊は噴乳したってことなのか?」


 明日は我が身のケルガーは、鼻息荒く話を遮った。


「いえいえ、そこは色々ありまして、彼の生存を掴んだ使者が機転を利かせて、『皇帝陛下が狩りをされて雁を射落としたところ、その足に彼が生きていると書かれた絹が結びつけられていました』と大嘘をついて匈奴にカマをかけ、見事奪還に成功したのです。それからは手紙のことを、『雁の便り』というようになったとのことです」


「へーっ、それが真実だとしたら、中々面白い話だな。俺もいざとなったら試してみるか、ハハハハ」


 ミノタウロスは心底楽しそうに、大口を開けて豪快な笑い声を上げた。


「しかしそんな極寒の地に雁が来ると良いですがねぇ……」


「まあ、俺もあまり知らんが夏には大丈夫なんじゃねえの?だが自分の場合、よく考えたら使者でもないし、助けてくれる味方がいるわけでもないんだから、そのソブってやつと全然話が違うな……」


 一旦冷静になったケルガーは、検討の結果参考にならないと判断し、残念そうにつぶやいた。


「確かにそうですが、ひょっとしたら僕はあなたの問題を解決してあげることが出来るかもしれませんよ〜、フフフ」


 本多は悪戯を思いついた悪ガキのような邪悪な目つきになって、不敵にほくそ笑んだ。

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