表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
582/737

カルテ553 牡牛の刑(後編) その3

「頼む……あまり人の古傷を抉らないでくれ……もとい、優しくしてください……」


「おおっと、ついうっかり突っ込んじゃってすみません! こりゃまた失恋、じゃなかった失礼しました」


「うっ」


「だからそういうところですよ、先生」


「ギャーッ! 鼻の穴に聴診器の先っちょを突っ込まないでよセレちゃん! 先っちょだけでも良くないから!」


「……」


 カラスの喧嘩のようにやかましく騒ぎ立てる本多を見ているうちに、傷つけられたミノタウロスのガラスのハツもといハートも次第におさまってきた。


「忙しそうだから続きはもう話さなくてもいいのか、ホンダ先生よ?」


「いえ、どうぞ、お願いします!」


「よし、わかった。さてと、さっきは言い忘れたが、生還者がいなかったのには訳がある。皇帝陛下から言い渡されたとある条件を満たさなければ、いくら反省しようが、いくら年月を積み重ねようが、刑期が終わることなどあり得なかったからだ」


「ほほう? 気になりますねー」


 好奇心を止められない本多が、わずかばかり身体を寄せる。


「それは……母乳だ!」


「ぼーぼぼぼぼぼにゅううううううーっ!?」


「古い漫画のタイトルのような叫び声を上げないでください、先生」


「んぬむむむむひふうううううーっ!」


 あまりにも想定外の単語に興奮状態の本多を、いついかなる時も物事に動じない看護師が片手で喉元に軽くチョップをかまして制し、発語を止めた。


「続けるぞ。なんとも無茶苦茶で理解不能な話だが、その連れていかれた雄牛が牛乳を出すまでは、如何なる理由があろうとも刑期満了を認めないとのことだった。まったくもって馬鹿馬鹿しい話だがな、フフ」


 ケルガーは天井に届きそうな角を揺らしながら少し悲しげに笑みを浮かべた。我が身に迫り来る理不尽な運命を笑い飛ばしてやろうとでもするかのように。


「ゼイゼイ……またもや死ぬかと思った……しかしよーくわかりました……それは確かにちょーっとばかり厳しい条件ですね……でも、僕の方の世界でも遠い昔に似たような話があったのを思い出しましたよ」


 首をさすってダメージを癒しながら、本多が途切れ途切れにかすれ声を発した。


「ほほう?」


 今度は牛男の方が身を乗り出してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ