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カルテ555 百年前の異世界おじさん その5

「残念ながらそこまでは記録に残っていないのではっきりとは言えませんが、今までの流れから大体の想像はつきますよ。ただ、若いお嬢さんの前では口に出しにくい病名ですがね」


 本多はそこで言葉を切ると、意味ありげにニヤっと微笑んだ。


「そんな! 焦らされるとますます気になります! 後生ですから教えてください先生!」


 好奇心を抑えきれず前のめり気味に詰め寄る少女に、本多は罠にかかったウサギを発見した猟師のような気分を満喫しつつ、厳かに口を開いた。


「痔です」


「は……?」


 目をパチクリする少女を嗜虐的な目で見つめながら、本多は攻撃を開始した。


「痔には直腸と肛門の境目より内側に出来る内痔核と外側の外痔核とがありますが、血便は内痔核の患者さんが訴えることが多いです。内痔核とはいわゆるいぼ痔のことですが、その実態は内痔静脈叢という血管が集合した部分が膨らんだものです。ここは排便の時にその衝撃で出血することがあり、目の覚めるような真っ赤な血がティッシュに着くとそれだとわかりますが、中にはその血が大腸内に溜まって後から出る場合もあり、血便のように見えたりするのです」


「え……ええええええええええーっ!?」


 哀れな獲物ならぬ彼女は顔を朱に染めて驚きの声を保健室内いっぱいに轟かせた。


「ま、よくある話ですよ。いぼ痔なんて癌に比べりゃ屁みたいなもんですが、外聞的にはあまり麗しくはないですけどね。痛みを伴わないので皆さん癌じゃないかとつい疑ってしまうんです。ちなみに治療には座薬や軟膏を使います。そもそも大腸癌の好発年齢は40歳以降ですから十代のお嬢さんは心配なんてしなくていいですよ」


「そ、そんな……」


「多分その男性も診断名を告げられた時は今のあなたみたいな気持ちだったんでしょうねぇ。当時ノーベル物理学賞を受賞した世界一の理論物理学者でも、自分の身体のことはわからないものなんですよ」


「そうですか……って、ちょ、ちょっと待ってくださいよ先生!」


 世間話でもする調子で何気なくぶっ飛んだ単語を発した本多を凝視した清水の顔が赤色から青色に瞬時に切り替わる。さすが才女なだけはある。将来が楽しみだ。


「百年前にノーベル賞を取って日本に来たドイツ人の中年男性って、まさか……」


「ええ、彼の名は、相対性理論を提唱した、あの……」


 本多はそこでいたずらっぽくあっかんべーをしてみせた。

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