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カルテ552 百年前の異世界おじさん その2

 清水紀子の顔立ちは割と整っており、肌も色白で、もうちょっと化粧っ気があればモテそうなのにもったいないなと本多は余計な気遣いをした。


「……先生、私、おそらく癌なんです」


 ようやく手負いの獣のごとき勢いがおさまったと思うや否や、彼女はとんでもないことをのたまい出した。


「癌……!? その若さで一体全体何の癌だって言うんですか?」


 正直言って年齢的にはざっと白血病や骨肉腫、神経芽細胞種くらいしか思いつかないが、世の中にはまだまだ奇病難病がひしめいているため、彼は知的好奇心を少しばかり刺激された。


「はい、多分大腸癌だと確信しています。恥ずかしい話ですが、今朝、トイレをしたところ、その……」


 急に少女が年齢相応にうつむいてモジモジし出したので、さすがに本多はピーンと来た。


「ははあ、ひょっとしてアレが出ちゃったわけですね、お嬢さん」


「ええ……いわゆるその……血便が」


 若き乙女は熟し過ぎたトマトのように顔を真っ赤に染めながら、消え入りそうな声でつぶやいた。


「以前、医者の父から聞いたことがあるんです。血便は大腸癌のしるしだって! 私、まだ父以外の男の人と手を繋いだことすらないんです! このまま教科書や参考書に埋もれて虚しく死んでいくだけの人生なんて耐えられません! お願いします、本多先生、どうか私を助けてください!」


「……」


 本多は、まるでドラマに出て来る悲劇のヒロインだと言わんばかりに号泣する清水紀子を見つめながら、(そういや遥か昔、大学の同級生に清水ってやつがいたけど、さてはあいつの娘か……マンマミーア!)と一人納得していた。清水は非常にそそっかしい男で生理学を女性の生理に対する学問だと期待していたり、銀河鉄道の夜のラストはカンパネラが機械の体を手に入れて川から飛び出してくると信じていたり、とにかく逸話に事欠かなかった。そのせいかどうかはわからないが留年を繰り返していていつの間にか疎遠になっていたが、どうやらめでたく医者になって結婚していたようだ。


(言われてみれば確かに似てるなあ……)


 切れ長の一重瞼や薄い唇の辺りに薄っすらと彼の面影を認めた本多は、なんとなく懐かしさを覚えた。

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