カルテ530 エターナル・エンペラー(後編) その99
その夜を境に、メジコンの街は地上から永遠に消滅した。ファボワール邸の別宅からの出火が周囲に延焼し、おりからの強風にあおられて街全体を包む大火となったのだ。結果多くの人は家ごと焼け死に、灰燼に帰した。
また、逃げようとした人々はどこからともなく現れた、うめき声をあげる死人に襲われ、即その仲間入りをしたという話が、からくも生き延びた数名の人々によって語られたが、皆興奮状態だったため、真偽のほどは定かではない。街に駐留していたインヴェガ帝国軍もその謎のゾンビたちによって滅ぼされたとも言われるが、これまた不確かな情報である(ちなみに、この事件が切っ掛けかどうか定かではないが、この後虐げられていたエビリファイ連合軍が総力を挙げてインヴェガ帝国軍を山脈の向こう側へ追い出し、領土を取り返したのだが、それはまた別の話である)。
但し、黒いローブをまとって死者の群れを率いて街を蹂躙し破壊し尽くした彼には、その全てが事実であるとわかっていた。そしてその傍らに控える青ローブも。
「ドウダ、見事復讐ヲ果タシタ気分ハ? 嬉シイカ? ソレトモスッキリシタカ?」
「いや、予想していたよりも何も感じないな。どちらかというと虚しいというか……だが、ずっと心をノミで打ち砕いていた音がピタリとやんだ気はする」
背後から響く木枯らしにも似た声に対し、今や超常の存在となったメイロンは振り返りもせずに陰鬱に答えた。
「ソウカソウカ、ソレダケデモ手ヲ貸シタ甲斐ガアッタトイウモノダ。コレデ今夜カラ枕ヲ高クシテ眠ルコトガ出来ルダロウ……ッテ、モウアンデッドダカラ睡眠ハ必要ナカッタナ。失礼シタ」
「ああ、残念だがどうやらそのようだな。しかしそれは置いておくとして……」
星々の瞬く天まで焼き焦がさんばかりに盛大に燃え上がる劫火を背景に、向きを変えた骸骨は青ローブと対峙した。
「あなたは何故、その身体に魂を移されたのだ、デルモヴェート神よ?」
「……」
青ローブは急に黙りこくり、地獄の様相を呈する市街地を眺めた。そこでは今にも消し炭となっていく人々の阿鼻叫喚が木魂していた。
「我々五大神ハ生身ノ肉体ヲ持タヌ。ソレ故信者ナドノ肉体ヲ借リルコトガ可能ナノダ。因ミニ我ガ居城デハ漆黒ノ石像ヲ依リ代トシテイタガナ。アノ時私ハオ前ニ興味ヲ抱イタ。ヨッテシバラクノ間、側デ観察サセテモラウ」
そして邪神はエルフの美女の顔で壮絶な笑みを浮かべた。




