カルテ527 エターナル・エンペラー(後編) その96
「以上がそれがしの一代記、というわけじゃ。やれやれ、話し続けてちとくたびれたわい」
骸骨はそう言い終えると首をパキパキと音を立てて動かした。
「まるでおとぎ話みたいだわ……デルモヴェートと取り引きをするなんて……!」
同じ邪神の眷属であるルセフィが信じられないとでも言うかのように声量を上げる。
「でもエターナル・エンペラーなんていう規格外の魔物になるには、それくらいの代償は必要かもしれませんね」
シグマートが興味深げな目つきでドクロ頭を眺める。
「話の筋は通っているし、本当なんじゃないのー? でも肝心の最後の問題がわっかんないわー、あーん」
「おい、髪をいじるのをすぐやめろ! こっちにかかるだろう!」
イレッサがモヒカン頭を掻きむしるため、海草のような毛がバサバサと波に揺すられるように乱れ、顔に降りかかったミラドールが怒声を発した。
「残念ですが小生もお手上げです。せめて何かヒントがあれば……」
ダオニールも悔しそうに顔をゆがめ、つま先でトントンと床を叩く。
「でもきっと、テレミンさんならノーヒントでも何とかなりますよ……きっと」
フィズリンガ祈るような視線を少年に送る。というか、ギャラリー全員の瞳が、今や彼と骸骨に集中していた。
「大丈夫ですよ、フィズリンさん。ヒントならもう十分すぎるほどいただきました。特にルセフィ、さっきはありがとう」
話題の中心人物のテレミンは、吸血鬼の少女に意味ありげにウインクして微笑んだ。
「えっ、ちょ、ちょっとどういうことよ!? 私は別に何も言ってないわよ!」
「いや、君が言ったつもりがなくても、僕にはとても助けになったんだよ。というわけで、やっと正解がわかりましたよ、メイロン博士……じゃなくて、エターナル・エンペラーさん!」
「ほう、解けたと申すか! それがしが何百年にも渡って考え続けてきた神の難問を!」
自身に満ち溢れたテレミンの言葉に、さすがの骸骨も驚嘆し、全身の骨を鳴らした。
「ええ、落ち着いて考えたら簡単でした」
「よし、ならば聞かせてもらおうか、その答えを!」
「これですよ、これ」
少年の細い指先が宙に伸びる。その先には、室内を我が物顔に飛ぶ黄金蝶の可憐な姿があった。
「「「「「「「ちょ、蝶!?」」」」」」」
テレミンと青ローブを除いた七名の叫び声が同時にとどろき、氷の壁に反響した。




