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カルテ526 エターナル・エンペラー(後編) その95

「な、なんでこんな場所に虫が!?」


 ほぼありとあらゆる生物を知り尽くしていると自負しているメイロンだったが、まだ自分の知らない存在がいるという事実に対し、つい声を荒げてしまった。


【まったくうるさいやつだな。それはドウクツヨウガンコオロギって虫で、この辺りじゃよく見かけるぞ。冷えたばかりの溶岩の上を好んで生息するそうだが、珍しくもなんともないわ】


「い、一体何を食べているんですか!?」


【だから心で話せって。自分もよくは知らんが、おそらくは風で運ばれてくる植物の胞子や花粉や動植物の死体の欠片などを餌にして生き延びているんだろう。逞しいやつらだ】


(そ、そうでしたか……僕は、雪山や氷河に住む虫は知っていましたが、まさかマグマ付近に生息する虫がいるとは思いもよりませんでしたよ)


 ようやく普段の落ち着きを取り戻したメイロンは、慣れぬ心中会話で彼の得意分野について邪神に披露した。例えばヒョウガユスリカは氷河に生息する珍しい虫で低温でも平気で活動し、昼の間は氷河が日光で溶けて流されるため出てこないが、夜になると表面に出てきて藍藻などを食する等。


(むしろ彼らは高温が苦手で、人が触るだけで弱って死んでしまうほど繊細なんです。だから研究には非常に苦労するんですよ。他にも雪山に住む黄金の蝶がいましてね、これまたこのユスリカに似ていまして……)


 急に心が饒舌になったメイロンを、興味深げに(顔が無いからよくわからないが)眺めていた邪神だったが、一瞬心の声が止まった隙を見計らって、くちばしを挟んできた。


【お前の生物にかける情熱はよーくわかった。ついでにお前の本当の願いもな】


(ええっ!? 自分ではまださっぱりですよ!どういうことなんですか!?)


【ま、別にお前自身が知る必要はなかろうて。よし、では今から転生させてやるが、結局自分からは言えなかったわけだから、一つこちらの条件も呑んでもらおう】


(ええっ、眷属にさせていただけるんですか!? わかりました、どんな条件でも良いです!)


【大したことではないんだがな……お前が首尾よくエターナル・エンペラーに生まれ変わったとき、最初に造るゾンビはこっちが手を加えさせてもらおう。どうだ?】


(え、ええ……別にかまいませんが……何故です?)


【それは上手くいってからのお楽しみだ……じゃあ今すぐ死ね】


(はい!)


 こうしてメイロンは持っていた特殊な短刀で自ら喉をかき切って、人間としての生を終えた。

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