カルテ525 エターナル・エンペラー(後編) その92
「えっ、デルモヴェートに直接会ったんですか!? そんなことが可能なんですか!?」
想像の斜め上をいく骸骨の打ち明け話にテレミンは仰天し、それこそ天地が逆転したかのような気分になった。
「左様。これもアロフト村長のおかげと言って良いじゃろうな。あのエルフ族の大長老は密かに邪神を深く信奉しており、神の居城を探り当て、生きたままそのお膝元に詣でる術を研究しておった。もっとも実行までには至らなかったが、その手段を事細かに、あの例の紙に書き記しておったのだ。つまり、いずれそれがしが赴くことになるのを見越しておったわけじゃな。あの5年縛りの件といい、つくづく恐るべき慧眼の持ち主よ」
「な、何のために……?」
「知れたことよ。亡者を眷属とするかの神は死者を蘇らせる驚異の力を持つ。だが生前の意思を保ったままアンデッドに転生するには、それなりの手続きを要するがな。もっとも長命な種族のエルフが今更不死を望むかというと、そこは微妙であるからして、恐らくは自分以外の者を再生させたかったのであろう。何らかの形でな」
「ああ、そういうことですか……」
ようやくテレミンにも察しがいった。村長はあの麦わら帽子の似合うはすっぱな女性にずっと心を奪われたままだったのだ。それが彼をして道ならぬ邪教への信仰へと走らせ、ひいては村を滅ぼす原因となったのだ。結果論ではあるが。
「つくづく因果なことよ。だが、それがし自身も邪神の力を求め、まさに神頼みに賭けたのじゃから、他人のことを言えた義理ではないわい、カッカッカッ」
骸骨は歯だけとなった口を大きく開けると枯れた笑いを発した。
「そ、それでどうなったんですか!?」
「どうなったって、今のそれがしの姿を見ればわかるであろう? 顔無き神は我が願いを受け入れたわけよ。だが……」
そこでドクロ爺は入れ歯のような口を閉ざすと、しばし押し黙った。どこからか侵入した冷風が室内の黄金の妖精たちの間を吹き抜けていく。
「結局のところ、それがしはデルモヴェートの問いに答えられなかった。自分の真の望みを伝えられなかったのじゃ」
「ま、まさか……」
「そうじゃ。この邪神の問いこそが、お主に解いてほしい最後の問題じゃ」
話しながらも、彼の暗い眼窩に炎が宿っていく。血塗られた怨念のごとき紅い炎が。




