カルテ524 エターナル・エンペラー(後編) その91
(さてと、これからどうしたものかな?)
あたかも黒い彫像をそのまま大きくしたかのような黒尽くめの神に相対し、ラミアン改めメイロンは、正直かなり戸惑っていた。艱難辛苦を乗り越えいざ邪神の御前まで無事に到達したはいいものの、そこから先どうやってコミュニケーションを図るかまでは考えの外だった。何しろ話をしようにも、黒いローブをまとった神の顔面は切り落とされたかのように平らで、目も耳も鼻も口も備わっていないのだ。これでは筆談すらままならない。
【神様だからってなんにも臆することなんかないぞ。存分に話してみろ。心の中でな】
「えっ!?」
突如頭の中に、聞いたことのない男の声がクリアに流れ込んできたため、メイロンは大いに焦った。周囲を見回すもだだっ広い謁見の間には自分と邪神の姿しかいない。
「い……今のはあなたの声なのですか、デルモヴェート!?」
思わず叫ぶ彼の脳内に、またもや謎の声が響いてくる。
【だから口に出さなくていいって言ってるだろうが。俺は邪神とはいえ神様だから、対面の者の考えを読んで心の中に話しかけるくらい朝飯前よ】
(そ、そうでしたか。大変失礼いたしました)
【いいってことよ。どの名前で呼べばいい?】
(メイロンで結構です)
ようやくシステムを理解したメイロンは、脳内会話を受け入れることにした。最初は慣れないが、すぐに適応していった。明確に思考を結んで、相手に問いかけるだけだ。
【おっ、その調子だ。で、お前さんの望みは何だ? わざわざこんな地の底まで来たんだ。よっぽどの頼み事があってのことだろう?】
「お願いします! 僕を不老不死の存在にして、あなたの眷属に加えてください!」
彼はつい口に出しながらも想いを吐露し、これまでの経緯をつらつらと語った。
【ほほう、つまりアンデッドの頂点に立って復讐を遂げたいわけか。だが、お前さんの真の目的はそこじゃないようだな】
(えっ、別に嘘はついてませんよ! これが偽りない本当の気持ちです!)
【確かに自分じゃそう思っているんだろうけど、自覚していない心の奥底にある想いが眠っている。それを俺に打ち明けてみろよ。そうすれば願いを叶えてやらんこともないぞ、フフフ】
微動だにせぬ邪神は悪戯っぽくメイロンの心の中で笑った。




