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カルテ523 エターナル・エンペラー(後編) その90

 何処とも知れぬ深き地の底、高熱を発するマグマが赤く輝き、黒色の岩肌を照らしていた。直径数百メートルはあろうかという広大な横穴が巨大な大蛇の腹の中のようにウネウネとねじれながらどこまでも続いている。天井からはツララのように無数の溶岩鍾乳石が垂れ下がり、洞窟のところどころでは煮えたぎった溶岩がゴボゴボと吹き上げ、一歩でも道を踏み誤るとそこで人生終了だと警告を発していた。いわゆる活火山における溶岩洞である。


 そんな地獄もかくやという悪夢の中のような空間を、1人の初老の男がまるで散歩でもするかのようにテクテクと歩いていた。あの惨劇の日から数十年後のラミアンの姿である。今やメイロン博士と名乗り、数々の著書を記して有名人の仲間入りを果たした彼であるが、その知識と好奇心と執念に彩られた紫の双眸は、昔となんら変わるところがなかった。


「もう少しか……」


 彼は時々一旦足を止め、触れば崩れ落ちそうなほど古びた羊皮紙をポケットから取り出すと、アメジストに似た瞳に近づけ、矯めつ眇めつ眺めていた。洞窟内を吹きすさぶ風が羊皮紙をはためかせるため、飛ばされまいとつまむ指先に力を入れる。


「全く、我ながらよくこんな場所まで来れたものよ……」


 嘆声を発しつつ進行方向に目を転じる。彼の行く手には、こんな地の果てには存在するとは信じられぬほど壮大かつ煌びやかな、黒い石造りの古城が遠くにそびえ立っていた。その城のあちこちに飾られている魔獣や人物の石像は、どれもこれも削り取られたように顔面がなかった。


「あれが、死と復讐の居城か……」


 生ある者はたどり着くことが叶わぬと言われる魔の城を遠望しながら、ラミアンは再び道無き道を進み始めた。



 城には出迎える者はおろか、生命の存在は欠片もなかった。但し城門はひとりでに開き、廊下は足を踏み入れると流れるように動くなど、奇妙な仕掛けがそこらじゅうに施され、博識な彼をも驚かせた。人間や動物を様々な形に切り刻んで再構成したような、説明しがたい形状のオブジェらしき物が随所に飾られていたが、それくらいでは彼の心をたじろがせ、城から遁走させることは出来なかった。もうとっくに引き返すことは不可能な地点まで彼は来ていたのだ。


 廊下やホール、中庭や自動階段を渡り歩き、遂に彼は謁見の間に到達した。そこの玉座にいたのは、石像同様顔の存在しない無貌の神・邪神デルモヴェートであった。

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