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カルテ521 エターナル・エンペラー(後編) その88

「それがしは世にも神秘的な侵すべからざる光景を、涙を流しながらいつまでも見守っておった。無数の黄金蝶たちはやがて何処かへと消えていったが、宗教画のごときその情景は底知れぬ絶望に沈み込んでいた自分を、ほんの、ほんの僅かだが優しく慰めてくれ、そしてもはや無価値になったも同然だったそれがしの残りの生を現世に繋ぎ止めてくれるくびきとなった。その後、苦労してラベルフィーユの首を切り落とすと、村長の残した邪神像と一緒に漆黒に包まれた焼け跡から持ち出し、一路ガウトニル山脈を目指した。遺体が腐る前に、この万年雪に守られた氷室を見つけ出し、保存するために」


 そこでまた骸骨は口を切ると、背後に立つ青ローブことラベルフィーユ2号を振り返った。ちなみに彼女の首からは金の鎖のついた緑色の宝石がきらめくペンダントがぶら下がっていることにラミアンは遅ればせながら気づいた。この珍しい自律思考を持つ生けるゾンビは、本体の魂である黄金蝶が抜け出した後のラベルフィーユの抜け殻を利用して作られたものだったのだ。


「やはりそうでしたか……今までの言動から、生者でないと睨んでましたし、顔色の悪い女性のようだとイレッサさんが教えてくれたのでもしやとは思いましたが……」


「あーら、いいのよお礼なんて。ただ、もしよければあなたの可愛いお尻をぐがっ!」


「ん、なんか言ったか? とさか背びれの毒魚野郎め」


 荷物袋を的確にイレッサの顔面にヒットさせたミラドールが涼しげな表情でうそぶく。


「ほう、やるのう。だがそれだけではエルフとはわかるまい?」


「ええ、そうですが最初青ローブを着ていて男女の区別がつかなかったところを見ると、失礼ですが胸はそれほど無いとお見受けしました。つまりエルフの遺体を利用した可能性が高いと判断したのです。まさか身体は別人のものだとは思いもよりませんでしたが」


「おうよ、ちょうど良いバランスの身体を探すのに苦労したぞい」


「主様ニハ悪イガ、私個人トシテハ胸ハモウ少シアッタ方ガ好ミナノダガ……」


「ええっ、そうなんですか!?」


 案内人が意外な告白をしたので、ラミアンは仰け反りそうになった。先ほどから薄々感づいてはいたが、やはり現在の彼女の性格は以前とは真逆のようだ。ということは……


「失礼ですが、ラベルフィーユさんの魂は、生前とは別人のものなんですか?」


「勿論ソウダ。ヨウヤク気ヅイタノカ、愚鈍ナ奴メ」


 案内人はどこまでも毒舌だった。

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