カルテ518 エターナル・エンペラー(後編) その85
「お主たちを案内してきた者の名前はなんじゃ?」
彼は白墨のごとき指でついと常に側に侍る従者を指した。
「え……?」
これにはテレミンも絶句して金魚みたいに口をパクパクする有様だった。
「ちょっと、何言ってんのよ骸骨ジジイ! あんたボケたんじゃないの!? そんなもんわかるわけないし、そもそもあんたに関係ない質問じゃないのよ!?」
「貴様、主様ガ要介護者ダト抜カシタカ!? 塵ニ変エテクレルワ! ソコニ直レ!」
イレッサの暴言に反応して話題の当人がブチ切れ、拳を構える。
「両名控えよ! この神聖なる黄金蝶の間で暴力行為を行うことは何人たりとも許さん!」
「ハッ、失礼致シマシタ!」
骸骨の大喝一声、青ローブは即座に元の姿勢に戻り、謝罪した。
「んもー、わかったわよー。あたいも言い過ぎちゃってごめんなさいねー」
イレッサも非を認め、二人はまたもや和解した。
「やれやれ、血の気の多い輩よ、言っておくがそれがしと全く無関係ではないぞ。何故ならば命名したのはそれがし自身だからじゃ」
「ええっ、そうだったんですか!?」
テレミンは驚きつつも、件の謎の人物をマジマジと凝視した。
(今のはすごく大きなヒントだぞ……きっと余計な争い事を避けるために特別サービスしてくれたに違いない)
少年は頭の片隅できっかけを作った腐れモヒカン頭に感謝するべきかどうか迷いつつも、脳のメイン部署では今までの青ローブに関する出来事や骸骨が語ったストーリーを存分に精査し考察していた。
(確かこの人は女性っぽい顔だったって、それこそイレッサさんが初対面の時言っていたはずだ。後、やけに顔色が悪いとも……)
更にテレミンは、ダオニールが案内人ガ接近してきた時、生者ではないと予想していたことを記憶の底からほじくり出す。おそらくそれは正しい。ならば答えはただ一つ。
「わかりました、エターナル・エンペラーさん! この方のお名前は……ラベルフィーユさんです!」
ほうっと骸骨の口から声が漏れる。青ローブも一瞬だが身体を震わせていた。と、いうことは……
「正解じゃ。ラベルフィーユよ、面を見せてやれ」
「ハッ!」
遂に紺碧のフードが跳ね上げられる。そこにはローブ同様の色合いをした、端正な顔立ちのエルフ女性が無表情でこちらを見つめていた。
「さすがじゃ、テレミンよ。ところでまだ話の続きは必要か?」
「はい! 僭越ですがお願いします!」
少年の曇りなきまなこに心を動かされたのか、骸骨はうなずくと、物語を再開した。




