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カルテ515 エターナル・エンペラー(後編) その82

「だからお父様にこの件を報告し、もしインヴェガ帝国が攻め込んできた場合には、邪悪なエルフどもの村を滅ぼしてほしいって伝えたのよ!」


「な、なんだって!?」


 あまりにも衝撃的かつ歪みまくったイルトラの告白にラミアンは耳を疑い、意識を失いかけたが寸前で持ちこたえた。彼女には聞かねばならないことがある!


「バカなことを言うな! なんだって君の父親がそんな真似が出来るんだ!?」


「あら、今まで気づかなかったの?お父様は昔からインヴェガ帝国と仕事の取り引きをしながら、その裏ではこちら側の重要な情報を提供していたのよ。はるか遠い先祖があちらの出身なんですって」


「スパイだったというわけか!」


「まあ、商売上便宜を図ってもらう意味合いもあったんでしょうけどね。だから近々戦争が勃発することも知っていたのよ。不思議だと思わなかった? 何故この街だけが掠奪を免れたのかを」


「……」


 聡明なラミアンは今や全てを明確に理解した。自分が依存していた男の正体は死の商人だったのだ。彼は自分の住む土地だけは見逃してもらう代わりに、なんの罪もないラミアンの恩人たちを悪魔の生贄に捧げようと企んだのだ。もし自分に少しでも人間の心があるのならば、このまま指をくわえたまま座して見ているわけにはいかない。


「さようなら、イルトラ。遅いのに見送りありがとう」


 深呼吸をゆっくりとした後、彼は通せんぼするイルトラをやんわりと押しのけ、よく手入れされた庭を突き進んだ。二度とこの家に帰ることはないだろう。


「ま、待ってよラミアン! 行かないで! 私を一人にしないで!」


「大丈夫。君には守ってくれる人が何人もいるよ」


 後、20歩。


「今街から出たら、本当に兵士たちに殺されるわ!」


「大丈夫。こっちは地元の地形に詳しいんだ」


 後、10歩。


「行かないで! 勢いで怒ってしまってごめんなさい! 許して!」


 背後から追いすがる声に哀願の響きが混ざるも、彼は一顧だにしなかった。


 門に到着。


「行くなら行くがいいわ! どうせもう手遅れよ! お生憎様!」


 怒りのたけをぶちまけた捨て台詞が、生きているラミアンがイルトラの声を聞いた最後となった。


 門は閉まった。

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