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カルテ511 エターナル・エンペラー(後編) その78

 新雪のように白いマントをはためかせたインヴェガ帝国の騎士団は怒涛の勢いで進軍して国境線の警備を突破し、メジコンの街は一戦も交えずに全面降伏した。街路を埋め尽くす白魔のごとき侵略者たちは、略奪狼藉の限りを尽くすかと思いきや、主人に獲物を殺すなと命じられた忠実な猟犬のように全く何も手につけず、領主の館や宿屋、集会所などは兵の宿舎として徴収するも、目立った暴力事件なども特になく、住民たちは拍子抜けしたほどであった。


 ただし、街から一歩外に出るとそこは悪虐非道が横行する蹂躙の嵐で、業火の燃え盛る無法地帯と化しているとのもっぱらの噂で、人々はなるべく自分の家から出ないように努め、災いが過ぎ去るのを身を潜めて待ち続けた。


(何故この街だけは無事に済んだんだろう? しかしそれよりも故郷の家族やエルフの安否を何とか知る方法はないものか?)


 事が勃発して以来、ラミアンの心は荒れ狂う大海原を漂う木っ端のようで、一瞬たりとも安らぐことはなく、ただただ街から抜け出す方法を模索するばかりで悶々とした日々を送っていた。街と外との出入りは進駐軍によって厳しく統制されていたが、穴はあった。


 薬草師のラミアンの元に訪れた腹痛の兵士を治療したことで、チャンスは生まれた。兵士は非常に感謝したため、仲間を買収してこっそり門を通してくれることがすんなりと決まった。ラミアンは急いで身の回りの品々をまとめると、約束の新月の晩、夜逃げ同然に家を出ようとした。だがドアを開けた瞬間、その場によく見知った人物の影を発見し、心臓が凍りついた。


「イルトラ!? 何でこんな時間にここに!?」


「あなたこそこんな時間に荷袋担いでどこに行こうって言うのよ、ラミアン?」


「そ、それは……ちょっと……真夜中のお散歩に……ゴニョゴニョ」


 質問を質問で返され、答えに窮するラミアンだったが、イルトラは全てお見通しだと言わんばかりの瞳で彼を冷たく射抜いた。


「答えは例の薄汚い皮袋よ。あの日あなたがトイレに行った隙にこっそり中を盗み見たの。そこには古い羊皮紙が入っていて、世にも恐ろしいことが書かれており、一番文末に『誇り高きエルフの領主・アロフトより愛しき我が息子・ラミアンへ』と記されていたのよ」


「ーーーーーーーーーっ!」


 月無き深夜の天空にラミアンの声にならない絶叫が響いた。

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