カルテ510 エターナル・エンペラー(後編) その77
「蜘蛛1匹捕まえるのにそこまでのことをたった1分で思いつくとは……お見それ致しました」
人狼執事も鼻息荒く彼のことを手放しで褒め称える。
「……」
イレッサも何か言いたそうにしている様子だったが、今回ばかりはミラドールとシグマートに厳重に取り押さえられており、あえなく沈黙した。
「いやはや、少年とは思えぬ才じゃ。ふむ、これはもしかするとお主にならあの謎が解けるやもしれぬ」
骸骨は白い顎に同じく白い右手を指を直角にして当て、何かを考え込んでいる様子だ。テレミンは何だかそこはかとなく悪い予感がした。
「な、謎ですか?」
「そうじゃ。並ぶ者なき大賢者と称えられたそれがしにも何百年間の長きに渡って解き明かせぬ謎がある。それを含めた3つの謎を、今から順次お主に出題しよう。見事全問正解できた暁には、この深淵の地から抜け出せる方法はおろか、我が秘蔵の品をお主に授けようぞ。悪い話ではあるまい?」
「しししししかし……」
テレミンはためらいの色を顔中に浮かべて冷や汗をかいた。叡智の結晶のごときエターナル・エンペラーが長年かかってわからない難問を、若輩者の己ごときが解答出来るというのか!?
「無理無茶無謀ですよ! 答えのわからない解いなんて、解けませんよ! だって正解かどうか判別しようがないじゃないですか!?」
風が巻き起こる程の勢いで首を激しく横に振って抵抗するテレミンだったが、骸骨はカラカラと笑うばかりだった。
「カカカカッ、安心せい、若者よ。クエスチョンは三問ともこのそれがし自身に関する事柄ばかりじゃ。よって真に返答が正しければ、真夏の太陽の日差しに溶ける氷のごとく、自ずから疑問は溶け、結果それがしは大いに満足するであろうよ」
「そ、そんなものですかねぇ……」
「いずれにせよ、お主は先ほどの蜘蛛捕りの一件ですでに我が一連の出題にどっぷり首まで浸かっておるのじゃ。もう後戻りすることは叶わぬ。じゃが安心せい。難問は一番最後のお楽しみにとっておいてやろうぞ」
「うう……結局は受けざるを得ないんですね。わかりましたよ」
「なんじゃい、若い者がそんなに気を落とすな。もっと背筋を伸ばしてシャキッとせんかい!」
骸骨は干からびたサンゴのような手のひらでバシッとテレミンの背中を叩いて喝を入れた。




