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カルテ507 エターナル・エンペラー(後編) その74

「じゃあ、早く例の件について考えてくれる?」


「まあまあ、それより早くご飯にしよう。せっかく持ってきてくれたシチューが冷めちゃうよ」


「え……ええ」


 下手に話をはぐらかされたため、イルトラは明らかに不服そうだったが、それ以上その話題に拘泥することはなく、素直に夕食の準備に取りかかった。その様子を横目に見て、ラミアンは「ふう……」とため息をつく。そう、彼女の存在こそが、彼の意に添わぬたった一つのことであった。


 事実上の押しかけ彼女となりつつある令嬢イルトラは、事あるごとにラミアンに婚姻を迫ってくるが、残念なことに彼には毛ほどもその意思はなかった。もっともこれはイルトラが悪いわけではない。


 子供の頃からエルフの里でラベルフィーユという人間とは比較にならぬほどの絶世の美女と寝食を共にし、エルフに骨の髄まで魅了されていたラミアンにとっては、まな板のように胸がまっ平らな女性こそが至高の存在であり、自己主張が激し過ぎる豊満なおっぱいなんぞ恐怖と嫌悪の対象でしかなかった。げに恐るべきは少年期に培われた性癖である。


(だが、今彼女を冷たく拒否しては、ファボワール家からの資金援助を即座に打ち切られるであろうことは火を見るよりも明らかだし、このやけに住み心地の良い家も追い出されかねないしなぁ……さてはて)


 というわけで、そんな失礼極まる胸の内はおくびにも出さないが、とにかく押し売り並みにしつこい彼女からの求婚を、なんやかんやと言い訳をしつつのらりくらりとかわしまくって、結果今日に至る、というわけである。


(やれやれ、一体どうしたら穏便に自分のことを諦めてくれるんだろうか……本当にお互いにとって時間の無駄だよなぁ。でもこの手の病気につける薬はないって昔っから言うし……うーむ)


 思案顔で食卓の席に着いたラミアンは、ただ黙々と味のわからぬ食事をスプーンで口に運んでいたが、対面に座す悩みの元のイルトラは、チャンスとばかりにまたもや話を蒸し返してきた。


「やっぱり結婚ってある程度急いだ方が良いと思うのよ。体力的な問題もあるし、何でもお父さんの話だと、北の帝国がしきりにこちら側に偵察を送り込んでいるそうよ。ひょっとしたら近々戦争が勃発するかもしれない」


「……!」


 スプーンを持ったラミアンの腕が、ふと止まった。

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