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カルテ504 エターナル・エンペラー(後編) その71

 空を夕闇が染め始め、繁華街で呼び込みとカラスが声出しを競い合う時刻が訪れた。


「こんばんはラミアン、ご飯持ってきたわよ!」


 溌溂とした声と同時に家中に響くノックの音が、現在絶賛読書中のラミアンの尻を椅子から浮かせ、玄関へと急がせた。


「ああ、悪いね。いつもありがとう、イルトラ。しかし別に毎晩作って来なくてもいいよ。大変だろう?」


「何言ってるのよ! どうせ放っておいたら読書三昧で食事をすっぽかすくせに! さ、冷えちゃう前に一緒に食べましょう」


 湯気の立つアツアツの鍋を両手で持つイルトラは、なんとエプロンはおろか鍋掴みまでフル装備していた。彼女は勝手知ったる他人の家とばかりに、挨拶もそこそこに屋内に上がり込むと、そのまま台所へ直行した。


(やれやれ、相変わらずの有無を言わさぬ強引さだな……)


 流れるような隙の無い彼女の動きには、家主のラミアンも舌を巻くほどだ。


「今日はあなたの好きな鶏肉がいっぱい入ったシチューよ! 栄養たっぷりだからいっぱい食べてね!」


「ほう、そりゃ美味しそうだ。でも君も肉が食べられるようになって良かったよ」


 ラミアンは心の底からそう述べた。いまやイルトラは健康体そのもので、最早何の処方も必要とはしていなかった。それなのに定期診察が必要だと称しては毎日のように押しかけてくるが。


「あの頃は無理なダイエットをしていたのよ。13歳の時、当時大好きだった男の子に一世一代の覚悟で告白したら、『太っているから嫌だ』ってひどいこと言われて傷ついて死ぬほど落ち込んで、それからお肉を一切食べなくなったの。でも、あなたに身体のために必要だって言われて、また摂るようになったの。何故って……」


 彼女はそこで一旦口を切ると恥ずかしそうにうつむき、鍋の蓋とにらめっこした。


「何故って?」


「何故って、あなたはその私を振った男の子と雰囲気がよく似ていたからよ。特に外見がね。でも中身は全然違って優しいし、頼りがいもあるし、彼と雲泥の差だわ」


「そうかい、そりゃどうも」


 なるべく素っ気ない風に答えたつもりだったが、そんな返事でも十二分に嬉しかったらしく、彼女の顔の火照りは治まらなかった。

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