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カルテ502 エターナル・エンペラー(後編) その69

「いいか、マーデュオックスちゃんを捕まえず放置するならば、お主ら全員今すぐ骨片一つ残さず灰と化してやろうぞ!」


「あら、老骨は無理をしない方がよろしくてよ」


「ま、待ってください! 2人ともやめて! 僕がやりますから!」


 今や魔王と化した不死者と闇の盟主たる吸血鬼の真祖の前にテレミンが身を投げ出し、あわや一触即発の場面に勇敢にも割って入った。


「フン、威勢の良いのは認めるが、お主に出来ると申すか? マーちゃんは同種のオスほどではないが、かなりすばしっこくて、それがしも専用の道具なしでは捕獲には非常に苦労するぞ。今運の悪いことにちょうど道具が壊れていて使用不能なんじゃ」


 彼の参戦で毒気を抜かれてやや易怒性が収まりかけた骸骨だったが、まだ疑いの眼差しを暗い二つの眼窩から注いでいた。


「大丈夫です! こう見えても虫捕りは昔から得意なんです! 子供の頃は薬になる虫を大量に捕獲して薬草師に売りさばいて生計を立てていました! これくらい楽勝ですよ!」


「ほう、中々頼もしいのう。よし、これを第一の課題としよう。マーデュオックスちゃんをお主の力だけで、手で触れず、かつ傷つけずにケースの中に戻してみせろ。ただし時間は1分のみじゃ。道具はここにあるものや自分の持ち物を使っても構わん。それで良いか?」


「はい! よろしくお願いします!」


「で、テレちゃんがめでたく失敗したら、あたいたちは問答無用でゾンビライフってわけ?」


 せっかく収まりかけたにらみ合いを、後ろで膝を抱えて座っていた腐れ大根が蒸し返す。「それもそうだな」とつぶやく声もちらほら聞かれた。


「イレッサさんの言いたいこともわかりますけど、ここはひとつ僕を信じて任せてください! この程度の試練ならお茶の子さいさいですし、僕にとってはボーナス問題みたいなものですよ!」


 テレミンの眼は笑っていた。彼は仲間たちにサムズアップしてみせる。要は自分に任せておけ、という意味だ。波が引くように、皆の喧騒は徐々に静まっていった。


「まあ、確かにこと生物に関する知識においてはこのメンバーの中でテレミンさんが一番ですし、洞窟をここまで突破してこれたのもほぼ彼の機転のおかげですから、やらせてあげても良いのではないですか?」


 人狼執事が彼の肩を持ち、支持を表明する。場の空気は変わりつつあった。

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