カルテ501 エターナル・エンペラー(後編) その68
「ちょっとちょっと髑髏ちゃんそりゃないわよー。こーんなに可憐でキュートで愛くるしいあたいをあーんなドログチャの腐った化け物にするなんて、世間様が許さないわよー」
「大丈夫だ、貴様はそれ以上腐っても大差ない。だが、嫌なのは私も同感だ」
ミラドールがイレッサをけなしているんだか擁護しているんだかよくわからない発言をしつつ、クロスボウに手を伸ばす。
「私だけはゾンビ化は生物的に無理だと思うけれど、大事な旅の仲間たちをムザムザと渡せはしないわ」
ルセフィも珍しく本気モードにチェンジし、双眸を紅い満月のごとくメラメラと燃え上がらせる。もはや両陣営の雰囲気はかつてなく険悪となり、冷え切っていた空気が熱を帯び、肌を焼くように感じるほどだった。
「エエイ、貴様ラ、イイ加減ニシロ! 賭ケル物無クシテ願イガ叶ウトデモ思いッテイルノカ!?」
ドンという雷鳴のような音と共に、石の床を突き破らんばかりの勢いで、激昂した青ローブが鉄槌のごとく右足を床に踏み下ろした。その衝撃は室内を地震のように揺らし、いくつかのビドロケースが棚から崩れ落ちるほどであった。
「ぬおおおおお! それがしの大事なマーデュオックスちゃんが!」
突如、部屋の主が乙女さながら絹を裂くような悲鳴を上げたため、皆は何事かと注目した。どうやら先ほどまでスケベ骸骨が出歯亀のごとくかぶりつきで中のピンクショーを観賞していた例のケースが今の震動で倒れ、中から交尾中改め食事中のメス蜘蛛がトンズラした様子だった。
「絶対に部屋から外に出すな! 誰か捕まえてくれ!」
「なんだ、別にそこまで慌てなくてもいいじゃないの。たかが蜘蛛一匹なんlでしょう?」
いつになく冷たい口調で、未だに赤眼のままのルセフィが雪つぶてのごとく言い放つ。
「何をぬかすか! あれはこの寒冷地でも生息出来る非常に珍しい種の蜘蛛なんじゃ! もし万が一逃したらただでは済まさんぞ!」
「えーっ、それって私たちのせいじゃなくってそこの暴力的なあなたの部下の仕業じゃないの?」
「うるさい小娘! 元はと言えばお主たちが人の家くんだりまで来てギャアギャア騒ぐからじゃ!」
ルセフィはあくまで正論を唱えるが、焦りで我を失ったドクロジジイに対しては逆効果だった。




