カルテ499 エターナル・エンペラー(後編) その67
少年時代に森で迷って崖から転落し骨折してなす術なく横たわっていたところを運良く隠れ里に住む薬草師に助けられ、彼らの村で一緒に過ごしながら薬草について学び、また、そこでイルトラと同様の症状の病気にかかるも、秘伝の薬のおかげで一命を取り留め、全快した後これ以上迷惑はかけられぬと決意し旅に出ることとなった……ラミアンはそのように語り、自分の過去について披露した。幾分かの真実を忍ばせてあるのは、あまりボロが出ないようにするための、彼なりの知恵だった。人はあからさまな嘘には目ざといことが多々ある。特に何度も騙されて来た経験を持つ者ならば。
「というわけで、僕はお嬢さんの噂を耳にしたとき、自分が命を救われた過去を思い出し、これぞ今まで他人に受けた恩を返す絶好の機会だと即判断したのです」
そう締めくくると、ラミアンは人懐こい笑顔を浮かべて半ば身を起こして聞き入っていた少女の顔を正面から見つめた。
「凄いわ……まるでおとぎ話みたい……」
少女の瞳からは最初に宿っていた猜疑心は綺麗さっぱり拭い去られ、代わりに信頼に満ち満ちていた。
「すみません、先ほどは大変失礼なことを言ってしまって。病人のたわ言だと思ってお許しください。何しろ今まで当家を訪れた薬草師を名乗る人々はあまりにも胡散臭い者たちばかりだったのです。治療法も、そこら辺の道端に生えている雑草から作った偽薬だとか、ヒイラギの葉のついた枝で血が出るまで身体を叩き続けるだとか、詐欺師まがいのような悪質なもの揃いでしたから」
「そ、それは本当にひどいですね……」
ラミアンは知らず知らず頰が引きつりそうになった。確か、ヒイラギ云々は霜焼けを直すと言われる民間療法だが、そもそも治すというよりは拷問の類いじゃないかと内心突っ込みながら。
「よし、お前が気に入ったのなら、今日からこの方にはさっそく我が家に泊まっていただくことにしよう!どうぞ、好きなだけ滞在してください。もちろん食事もお出ししますよ」
「あ、ありがとうございます!」
主人の破格の申し出に、飢えた青年は一も二もなく飛びつくも、これはいよいようかうかしてはいられないぞ、と心の奥底に釘を刺して我が身を戒めた。まずはようやく相手方に受け入れられるという第一の難関を突破したに過ぎないのだから。これからが正念場だ。




