表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
519/740

カルテ498 エターナル・エンペラー(後編) その66

「いえいえ、これくらいなんてことはありません。それでは、改めましてお嬢さんのご病状について詳しくお伺いしますがよろしいでしょうか?」


 とりあえず一つ肩の荷を降ろしながらラミアンは本題に入った。


「はい、実は……」と座り直した主人が語ってくれた娘の病歴は、先の酔っ払い男が管を巻いた友人の話と何ら変わったところはなかった。ただし語り終えた主人が茶の入ったコップに口をつけようとした瞬間、ラミアンはここを先途と一番聞きたかった質問を繰り出した。


「ところでお嬢さんは普段どんな物を食べておられますか?何か苦手な食べ物などはありませんか?」


「はあ、食べ物ですか……?」


 一息入れようとしたのを邪魔された主人はやや面食らった表情をしたが、コップをテーブルの上に置き直すと、おもむろにこう語った。


「そういえば娘は何年も前から動物の肉類は一切口にしていませんな。理由は何も喋ってくれないのでわかりませんが……それが何か?」


「いえ、もう十分です」


 ラミアンは自分の思惑通りに事が運んでいるのを実感し、心中で運命神カルフィーナに感謝の祈りを捧げた。



 くだんの令嬢の居室はあの可憐なベランダのある3階の一番奥だった。桜色の寝巻き姿で豪奢な寝台に臥床しており、主人とラミアンが入室しても目を開ける様子はなく、ベッドサイドまで近づいてようやく薄眼を開けた。


「こちらが娘のイルトラ・ファボワールです。年齢はこの前17歳になったばかりですな」


 空のように珍しい青色の髪の少女は、年齢よりも幾分幼い顔立ちをしていたが、男が放っておかないと思われる魅力を既に兼ね備えており、今後どれだけの美女に成長するか測りかねるほどだった。また、胸の方は横たわっているにも関わらず噂通り十分に自己主張しており、そちらの方は明らかに年齢以上で、とにかく末恐ろしかった。


「お父様……また違う薬草師さんを連れてきたの? もういい加減にしてよ。どうせ詐欺師みたいな人なんでしょう?」


 まぶたとまぶたの隙間から薄茶色の瞳で非難するように父親を睨んでいたイルトラ嬢だったが、詐欺師のラミアンは臆せずお辞儀をした。


「こんにちは。初めまして、イルトラ様。旅の薬草師のラミアンと申します。以前、お嬢様と同じ病気を患っていた者です。よろしくお願いいたします」


「ええっ、何ですって!?」


 今まで糸のようだった娘の双眸が、コイン大に見開かれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ