カルテ492 エターナル・エンペラー(後編) その60
「よいよい、許してやれ。確かにあの見るも無残な徘徊者たちとそれがしを見間違えるのも無理ないわ。しかしこの地の底に客人とは珍しいのう。長生きはするもんじゃて、ってもう生きてなかったわ、カッカッカッ」
骸骨は別段気を悪くした様子もなく、白い枯れ木のような骨だけの右手をひらひらと振って、まだ憤然としている青ローブを後ろに下がらせる。ダオニールもそれに合わせて拳を収め、ルセフィは胸を撫で下ろした。不要な戦いはもうこりごりだった。
「さて、もうすでに知っておるかも知れんが、それがしの名はエターナル・エンペラーじゃ。これは現在の種族名を現す言葉でもあるが、ユーパン大陸広しといえども何分それがし一人しか存在しておらんので名乗っておるわけじゃて。かつてはメイロン博士と呼ばれたこともあったがのう」
骸骨の発する声はどこから出ているのかわからないが、皇帝もかくやというほどの凄まじい威厳に満ち、なおかつ耳にする者の心根をたちどころに芯まで寒からしめる、不思議な効果を伴っていた。正に生死の領域外に君臨する超越者としての威圧感が言葉の端々から感じられ、定命の者においては思わずその場に跪きたくなるくらいであった。
(想像以上の圧力だ……でも、これくらいのことで怖じ気づいていては先に進めず、ルセフィを助けることも出来ない!)
丹田に力を入れて何とか耐え、心を決めたテレミンは、荷物袋から例の本を取り出すと、皆を代表してずいっと一歩前に進み出た。
「ほう、お主、それがしの声を聞いても平気なのか? 中々見どころがあるのう」
洞窟のように暗い眼窩に青白い光が宿る。どうやら永遠の皇帝陛下が興味を覚えた様子だ、と少年は判断した。
「お初にお目にかかります、偉大なるメイロン博士! 僕はテレミンという旅の者です!いつも博士の著作を愛読しており、生物に対する情熱と知識の奥深さに感銘を受けて研究者を目指すようになりました! つきましては、是非ともサインをお願いします!」
だが、いつの間にかドクロは再びビドロケースの方を向き、せっせと交尾に励む一対のクモを凝視し、少年の挨拶になど目もくれなかった。




