カルテ490 エターナル・エンペラー(後編) その58
「さて、これからどうしたものか……」
メジコンの街にある宿屋〈三本首のアヒル亭〉の一階にある安酒場で、木のコップに入った水をチビチビ飲みながら、ラミアンは一人悩んで黄昏ていた。外は早くも日は落ちて、冷ややかな空気が窓枠から侵入してくる刻限だ。
明日からいよいよ天下御免の無一文となるため、どうせならささやかな宴を開こうと、奮発して宿をとろうと英断したのだった。ひょっとしたら何か良い考えが浮かぶかもしれないという理屈もこねたけど、金策など容易に思い浮かぶわけもなく、悶々とするうちに時間だけが浪費されていった。
(ま、いざとなったら野の虫でも捕まえて食べればいいか……ダンゴムシは泥っぽかったし、水抜きする必要があるな。アリは酸っぱくて結構味がしたけど小さいしなぁ……ところであいつらからもビタミンB12をまかなうことは出来るのかな?)
そういった他愛もないことを模索していたとき、まるで天の配剤であるかのように、カウンターで飲んでいる2人の男の話し声が耳元に飛び込んできた。
「で、本当なのかよ、その噂のお嬢様の話ってぇのは」
「ああ、俺の友人が自ら言ってきたんだから間違いねぇ。彼が語るところによると、なんでもとある名家の箱入りの一人娘が謎の病気で伏せっているって情報を入手し、すぐさま旅の薬草師に変装してその本邸を訪れたんだってよ」
「おいおい大丈夫かよそいつ、捕まったりしねえのか?」
「なあに、それくらいどうってことないさ。バレたところで罪にもなりゃしねえって。さて、彼は執事だかメイドだかに下にも置かぬ心からのおもてなしを受けて中に通され、主人とお目通りし、薬草師だと信じ込ませた後、長い階段や廊下を通って二階にある娘の寝室に案内された」
「ヒューっ、やるねえ。で、その娘さんってのは美人なのかい?」
「18歳になったばかりのお嬢様は、街一番の美人と呼ばれるだけあってそりゃあ美しくておっぱいも大きめだったが、顔は青白くて手は震え、奇妙なことに舌は熟したイチゴみたいに真っ赤だったそうだ」
「へぇーっ、それは一体何て奇病だい?」
そこまで聞いてラミアンは雪道で突如クマに出くわしたかのような顔をした。自分はその病名を知っている!




