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カルテ489 エターナル・エンペラー(後編) その57

途端に棚が先ほどのトイレの壁同様にガタガタスライドしていき、奥にまた一つ空間が現れたが……


「な、何やってんのよあんた!?」


沈黙を命じられていたはずのイレッサは、思わず声を上げてしまった。そこはビドロで四面を覆われ、上部にだけ網の張られた、何かが入っている直方体のケースが整然と並ぶ石で出来た小部屋だったが、部屋の隅でとあるケースをかがみこんで上から覗き込み、「それ、そこじゃ!抱け、抱けー!」と小声でけしかける、フードをすっぽり被った黒ローブの姿があった。なお、そのケースの中では、二匹の灰色の蜘蛛が交尾の真っ最中だった。


「主様、主様」


 忠実な家来が呼びかけても、主人は小生物の生殖活動に夢中の様子でケースにかぶりつき、気づく素振りも見せない。


「主様! 客人ガ来ラレタノデ、オ楽シミハソレクライニシテオカレルノガヨロシイカト」


 業を煮やしたのか、青ローブが黒ローブの頭に手を伸ばし、撫でるように触る。途端に漆黒の人物は全ての動きを止めた。


「お、おお……お前か、よく帰ってきたな。すまんすまん、研究に熱中するあまり、全くわからんかったわい。やれ、どっこいしょっと」


 そう弁明しながら立ち上がり、こちらを振り向いたとき、黒ローブのフードがバサッと落ちて、その秘められた頭部があらわになった。


「嫌ああああああああああ!」


「ぼ……亡霊騎士!? 何故ここに!?」


 フィズリンが絶叫し、ダオニールが咄嗟に身構えたのも無理はない。そこにあったのは普通の人間の顔ではなく、長年野ざらしにされて雨で洗い流されたような真っ白な頭蓋骨であった。


「貴様! 無礼ナ振ル舞イヲスルナトアレホド忠告シタハズダゾ! ソノヨウナ雪山ヲウロウロ徘徊スルダケノ下等ナモンスターナゾト偉大ナル主様ヲ一緒ニスルデナイ!」


 激昂した青ローブが王の護衛のように神速で黒ローブの前に移動し、人狼に対して立ちはだかる。事態はまさに一触即発の様相を呈し、皆戦慄して中には鳥肌が立つ者もいた。


「ダオニール! やめなさい!」


 ルセフィの鶴の一言で、部屋の緊張が一部緩和する。ユーパン大陸でも最強クラスの魔力を秘めたバンパイア・ロードの彼女は、眼前の骸骨が自分と同程度かそれ以上の怪物であることを瞬時に悟っていた。

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