カルテ488 エターナル・エンペラー(後編) その56
青ローブが片手で軽く触れただけで、扉は苦もなく開いた。
「此処コソガ、エターナル・エンペラー様の御座所デアル。貴様ラ下賤ノ者ガ入室スルノハ異例中ノ異例ダ。クレグレモ無礼ナ振ル舞イハ慎ムヨウニナ。返事ハ?」
「はーい、わかったわーん! 下ネタはしばらく封印するから安心しちゃって構わないわよーん!」
「貴様ガ一番心配ナノダ、海藻頭メ。イイカ、モシ主様ノ御機嫌ヲ損ネルヨウナ真似デモシテミロ、ソレコソ命ガ幾ツアッテモ足リンゾ」
案内はくどいくらいに念を押し、イレッサを牽制する。
「大丈夫だってー。こう見えてもあたいったらハイ・イーブルエルフのリーダーを拝命しちゃってるので、そんじょそこらの人間のお貴族様なんかよりもテーブルマナーに厳しいのよーん。落とした物は一秒以内に拾って食べるしー」
「了解シタ。貴様ハ今後一切喋ルコトヲ禁止スル」
「えーっ!? 何でよいけずー!」
「自業自得だバカ、とにかく今は黙っていろ」
ミラドールが小うるさいイレッサの脛に小さく蹴りを入れたので、変態妖精族は涙目になりながらもうなずかざるを得なかった。
「デハ行クゾ者ドモ。失礼シマス主様、タダ今帰還シマシタ!」
「「「「「「失礼します!」」」」」」
青ローブを先頭に、ようやく一同はぞろぞろと入室する。そこは大理石造りの大きな部屋で、よくわからない謎の器具が周囲にごちゃごちゃと置かれていたが、一応中央部分だけは綺麗で、古いテーブルとソファーが二脚備えつけられており、玄関ホールに応接間も兼ねているような雰囲気であった。道具類の多くは年季が入りすぎて朽ち果てる寸前の様相を呈しており、また、壁の本棚には背表紙がすり減ったボロボロの本ばかりが並んでおり、古道具屋に迷い込んだかのようだった。
(す、凄い……! これが伝説のメイロン博士の自宅か……! 見、見たい……じっくりと!)
テレミンにとっては宝の山だったが、あまりキョロキョロするのはそれこそ失礼に当たると思い、なるべく前方だけに視線を据えていた。シグマートも同様の様子だったが、やはり大人しくして自己抑制に徹していた。
「で、肝心のご主人はどこにおられるんですか? 誰もいないようですが」
ルセフィの当然というべき質問には答えず、青ローブは無言で立ちすくんでいたが、「サテハマタアソコカ?」と呟くと、本棚に近づき中に挟まっていた金属製の薄い画板のような物を目にも留まらぬ早業で抜き取った。




