カルテ486 エターナル・エンペラー(後編) その54
かくして身を切られるような辛い別れの後、ラミアンは村長の言いつけ通り生まれ故郷のモーバー村へと帰った。案の定というか彼は村では5年前に森で行方不明になってとっくの昔に死んだものとされていたので、不意の帰郷に皆幽霊でもわいて出たかのように驚いた。
家族は生きていたなら何故一回でも連絡を寄越さなかったのかとなじるので、彼は実は長いこと記憶を失っていて、森の奥に隠れ住む親切な老人に助けられて一緒に暮らしていたが、最近になってようやく過去のことを思い出したためこうして戻ってきたのだと即興の作り話を披露した。やや苦しい言い訳だと自覚していたが、皆素直に信じたので拍子抜けしたほどだった。
古い慣習が残る田舎の村だったので、エルフのことは敢えて伝えなかった。彼らに迷惑がかかることを恐れたのだ。何しろ、「エルフやイーブルエルフの肉を食えば長生き出来る」と信じている未開の種族もいるそうだから。
かつて彼に文字の読み書きを教えてくれた親切な古老が、「そういえばかつてこの近くにあった街の領主の娘が戦争で敵に追われてあの森に逃げたときも神隠しにあったという言い伝えを聞いたことがあるのう。その後人を憎んで怪物と化したという別の伝説もあるが。お前さんは無事で良かったよ」と口にしたときだけはつい真実をぶちまけてしまいそうになり、自己抑制するのが大変だった。その女性の一族はとうに死に絶えているそうだったので、もはや何も出来ないと心に言い聞かせて何とかその場をやり過ごしたが。
「とりあえず落ち着くまで仕事はしなくてもいいからゆっくりしろ」と家族は口では言うものの、穀潰しが増えたのを歓迎していない雰囲気がありありで、寝ても覚めても針の上に座っている気分だったので、彼は厄介なことにならぬ前にと再び荷物をまとめ、ある朝家族が寝静まっているうちに出奔した。誰にも行く先も告げず、見送る者とて一人もいなかったが、気分は爽快だった。
こうして彼の当てもない漂泊の旅が始まった。




