カルテ482 エターナル・エンペラー(後編) その50
旅立ちの朝、ラミアンは森の外れでラベルフィーユと村長を含む数人のエルフたちに見送られた。滅多に森から出ない彼らがこのような場所まで出向くというのは異例である。あの白亜の建物が出現した奇跡の日から1カ月後、ラミアンの症状は薄皮がめくれるように徐々に回復していった。まだ万全とはいえなかったが、後は日にち薬であろうと村長が判断したため出立の許可が降りたのだ。
「我々が付き添えるのはここまでだ。まず最初に必ず実家に寄るのだぞ。どんな家族でも血の繋がりは切れないものだし、会えるうちに会うのは大切なことだ」
「わかりました。絶対にそうします」
村長の噛んで含めるような説明も、いつもより心なしか優しさがこもっているように感じられた。
「路銀はちゃんと持っているか?」
「大丈夫です。ここにあります!」
ラミアンが鞄を軽く叩くと、村長はうなずきながらも何かの皮製の小袋を懐から取り出した。
「ついでにこれも携帯していけ。もしお前が本当に困って道に迷ったとき、あるいは力を貸してくれるかも知れん。いざという場合にのみ開封するが良い」
「ええっ、中身は一体何なんですか? 何かの魔法の品なんですか?」
「それは秘密だ。だが、私の忠告が確かなことはお前もわかっているだろう?」
「そうよ、ラミアン。ちゃんと言う通りにするべきよ。病気の件、まさか忘れてないでしょう?」
「確かに村長さんの予言能力はすごかったしね……わかりました! 肌身離さず持っていきます!」
ラベルフィーユの勧めもあり、「5年」を見事に村長が言い当てたことを反芻したラミアンは謎の小袋をありがたく受け取るととりあえずポケットに入れた。そうこうするうちに徐々に高度を増した太陽が木々を美しく輝かせ、新しい門出を祝っているかのようだった。
「では、そろそろお別れですね。本当に今までお世話になりました! どうもありがとうございます!」
「ああ、達者でな。くれぐれも気をつけるのだぞ」
「ラミアン!」
ラミアンが皆に挨拶を終え、いよいよ立ち去ろうとしたその瞬間、身を切り裂くような切羽詰まったラベルフィーユの呼び声が彼の足を止めさせた。




