カルテ481 エターナル・エンペラー(後編) その49
「へー、確かに縦穴ってのはロープに吊るして荷物を運搬しやすいしねー。馬にでも引かせたのかしらー?それにしてもあんまり先に一人で行かないでよー、危ないじゃないのー」
イレッサが合いの手を入れながら、上に向かって右手をヒラヒラ振る。
「オ前タチコソアマリ崖ップチニ身ヲ乗リ出スト、ソノママ海マデ流レテイクゾ」
「あらまー、言ってくれるじゃないのさー」
すかさず案内人のカウンターが炸裂したため、イレッサは一本取られた顔をした。
「ご忠告痛み入りますが、さて、一体どこにトイレがあるのでしょうか? 小生はもうとっくに限界を超えており立ちくらみがしてきました。なんかピンク色のユニコーンとか見えます」
「そうですよ! さっきそろそろ近いとか言ってたじゃないですか!」
急に膀胱破裂が間近なことを思い出した2人が揃って反論する。案内人はやれやれといった風に軽くかぶりを振ると、右手を冷気の立ち上る見えざる滝壺に向けて指し示した。
「ダカラココガソウダ、抜ケ作ドモ」
「「はい?」」
「遠慮ハ不要ダ。下着ヲ下ロシ、身モ心モ開放的ニナッテ、思ウ存分ニ心行クマデココデ放出スルガヨイ、クソッタレドモ」
「「出来るかあああああああ!」」
大絶叫が合唱となって地下の大空洞を揺るがした。
「悪イ、今ノハ冗談ダ」
「「はいいいいい?」」
「トイレナラ直グ先ニ本当ニ存在スル。カツテココデ働イテイタ坑夫タチガ使用シテイタモノダガ、古クテモマダ使エルゾ。先人ニ感謝ダナ」
「それならそうと言ってくださいよ! ったく、人が悪いにもほどがあります!」
「まあまあテレミンさん、そんなことよりも早く行きましょう!便は急げです!」
「便じゃなくて尿だよ!」
「ウオオオオオオオーン!」
余裕を失っていきり立つ炎のように声を荒げるテレミンの首根っこをむんずと引っ掴んで抱っこすると、ダオニールは待ち焦がれた約束の地へと至るため、唸り声を上げながら猛然と断崖絶壁に作られた石段を駆け上がっていく。
「だ、大丈夫でしょうか……なんか石クズがぼろぼろこぼれ落ちてますけど……」
「ちょっと心配ね。私はコウモリになって飛べるからいいけど……それよりあなたも足元が震えているからトイレについて行った方がいいわよ、フィズリン」
旅の仲間たちは手に汗握りながら矢のように走る人狼と少年を見守った。




