カルテ479 エターナル・エンペラー(後編) その47
「ほう、それはまたどういう意味かな?」
村長の声音には本心から興味深そうに感じている雰囲気が醸し出されていた。
「つまり、このような薬や動物の肉を摂取しなくても、何らかの方法で悪性貧血を発症せずに済む方法を発見したいのです。そのため近いうちに僕は世界中を回って旅をし、見聞を広め、動物の研究をしたいと思います!」
「凄い! そんなことを考えていたのね、ラミアン! 天才の発想よ!」
いつしかラベルフィーユの泣き顔はどこかへ引っ込み、人間が変わったかのように自信に満ち溢れたラミアンの姿をまぶしそうに見つめていた。
「なるほどなるほど、それは神をも恐れぬ身の丈に合わぬ大それた野望を抱いたものだな。だが若者はそれくらいの見果てぬ夢があった方が良いのかもしれん」
村長も太陽を仰ぎ見るように眼を細め、ラミアンを通して遠い彼方を見つめていた。
「あの頃……ミオが病に倒れたときの私はひたすら身も世もなくおどおどするばかりで、何一つ出来なかったものだ。だから正直に言って具体的な目標のあるお前がうらやましいよ、ラミアン。実に見事なものだ。その心意気や良し! 大いに気に入った!」
村長は最大限の賛辞手放しで贈ると席を立ち、ラミアンをがっしりと抱きしめた。村長がこのような愛情表現をすることは大変珍しいことを知っているラミアンは感無量だった。
「たとえ地の果てでも大海原でも極寒の山脈でも灼熱の砂漠でも、この世のどこへでも自由に行ってくるがよい。旅の資金も潤沢とはいえないが用意してやろう。だが求めるものを見つけたならば、必ずやここに帰ってくるのだぞ、我が息子よ」
「はい! アクテ村は僕の第二の故郷です、アロフトさん!」
感激に全身を打ち震えるラミアンは、いつしか村長の腕の中で男泣きに泣いていた。そんな二人をラベルフィーユは慈母の眼差しで暖かく見守っていた。どこからか彷徨い込んできたのか、桃色の花びらが室内を春の妖精の衣のようにひらめき、彼女の飲みかけのコップの中に音もなく着水した。




