カルテ479 エターナル・エンペラー(後編) その47
「さて、お前たちは私の出した難問に見事満額解答するという偉業を成し遂げたので、村長権限で褒美を一つ与えよう。ラミアンは白亜の建物の診察を受け、特効薬も処方されたとのことだから、そのビタミンB12とやらが無くなるまで、アクテ村の滞在期間を延長してやろう。これは真実を知りたいというミオの悲願を叶えてくれた礼でもあるので遠慮は無用だ。私がしてやれることと言えばせいぜいそれくらいだが、どうだ?」
「「え?」」
突然の降って湧いたような僥倖に、ラミアンとラベルフィーユは喉をつまらせそうになった。ラミアンは村長の顔を伺うが、どうやら本気のようなので即座に思案する。おそらく昨日までの彼であったら獲物を前にした飢えた肉食獣のように一も二もなく飛びついたであろう千載一遇の素晴らしい申し出だ。だが……
「いえ、身に余るありがたいお言葉ですが、それはお受けできません」
「ええっ!?」
心臓を串刺しにされたかのような悲鳴が彼の隣から響き渡る。ラベルフィーユの表情は愛する者と無理矢理引き離されたかのように絶望に歪み、今にも泣き出しそうだった。
「ごめん、ラベルフィーユ」
ラミアンは真横を向くと、レディに対する紳士の態度を取り、深々と頭を下げた。
「別に君が嫌いになったわけじゃないんだ。むしろ今日の白亜の建物の一件で、君がどんなに僕のことを心配してくれていたのか、痛いほど伝わってきたよ。出来ることならば永遠にここにいたいと思う。でもそれじゃあ問題を先送りにしているだけで、根本的な解決にはならない」
彼は再び前に向きを変えると、机を挟んで対峙する村長に視線を戻し、大きく息を吸い込んだ。
「僕はあの奇妙な空間でホンダ先生の不思議な話を聞き、人体とはなんと奥深く精妙なものであり、また、動物たちも負けず劣らず複雑な仕組みで生命活動を営んでいるかということの一端を知り、迷いの森の中で前が開けた感じがしました。僭越ですが虫に関する知識は人に負けないつもりでしたが、自分が如何に浅はかで、生き物全般に対して無知だったのか骨の髄まで思い知らされました。いやはや、全く汗顔の至りです。同時に心の奥底から、もっと様々な生物の神秘の技を理解したいという想いが込み上げてきました。そしてそれが、僕がエルフの村で暮らしていける道につながると判断しました」
もうとっくに日が落ちているにも関わらず、彼の熱弁で室内の温度が急上昇したかのように他の二人には感じられたほどだった。




