カルテ476 エターナル・エンペラー(後編) その44
「アロフト村長、ひょっとしてミオさんは、自分の亡骸の上に桜の木を植えて欲しいとおっしゃられたのではないでしょうか?」
ラミアンの宙を切り裂く流星のごとき一声に、村長の形の良い眉がビクッと跳ね上がった。どうやら図星のようだ。
「よくわかったな。だがそれでは半分だけ正解だ。ま、独力でそこまで当てただけでも大したものだが」
「ちょ、ちょっと待ってください! もう少しで閃きそうなんです!」
ラミアンは左手で村長を制しつつ、右手で盛大に髪の毛をかきむしる。考え方自体は間違ってはいなかった。やはり彼女の遺体はあの場所に眠っていたのだ。だが、一体、何故、何のために……?
(彼女の一番の望みは何だ……? 言ってたじゃないか、それは「答え」を知ることだって……では……)
そこまで思い至った挙句、彼はついに真相の糸口にたどり着くことが出来た。
「そうか、植樹した桜が成長した暁には、その上にあの舞台を建てて欲しいと願ったんだ! そうでしょう!?」
興奮のあまり両手を大きく広げたラミアンは、危うく卓上のお茶をなぎ倒しそうになった。
村長はと言えば満足げに一つ大きくうなずき、椅子の背もたれに身体を預けながら、お茶をちびりとすすった。
「完全に合格だ。満額解答といっても良いだろう。成長したな、ラミアン。では、彼女の真意についてもわかるな?」
「はい、この平地の少ない村に平たくて広い場所を設け、いつ自分のような病人が出た時でも白亜の建物が降臨出来るようにした、というわけですね……今回のように」
ラベルフィーユが間髪入れずラミアンの答えを的確に補足する。
「その通りだ。ミオは人をからかう子供っぽい癖はあったが、その実他人を思いやる心優しい娘だった。お前たちが奇跡に遭遇し、解決法を授かったのも彼女の計らいのおかげだ。よく礼を言うが良い」
「「はい!」」
二人は目の前の麦わら帽子に対し、深く深くお辞儀をした。帽子は何も返礼はしなかったが、外の夜風が急に勢いを増し、まるで女性の笑い声のように響いた。




