カルテ473 エターナル・エンペラー(後編) その41
「それにしてもこれだけ大量のゾンビの元になった死体をどこから調達してきたのかしら?」
ルセフィの何気ない一言に、一同はそういえばそうだという顔つきをした。
「ままままさかこの辺りに凄腕の大量殺人鬼がすすすす住んでいたりして……!?」
「落ち着いてください、フィズリンさん。そんな物騒な話聞いたことありませんよ。それに先ほどの戦いでざっと見ただけですけど、何となく死因となる外傷が無さそうな方が多かったような……ま、皆崩れかかっているのでよくわかりませんが」
ダオニールがフィズリンをあやしつつ、注意力の高さをさりげなく見せつける。
「あらー、さっすがナイスガイな人狼ちゃんねー。てか戦闘中にそんなところまでチェックしてたなんて背筋がゾクゾクしちゃうわー。あたいもゾンちゃんたちをじっくりねっとり観察してたけど、やけにくしゃみが出そうなほど古い服装ばっかりだったわねー。もっと現代的でナマ足むき出しのセクシーなファッションだったらあたいもついうっかりメロメロになっちゃって危なかったかもしれないわー」
「お前は戦闘中に余計なものを見過ぎだ!」
「あーん、ごめんあそばせミラちゃーん、あなたのこともちゃーんと瞳に入れてたわよーん」
「いらんわ! っていうか腐った死体にまで欲情するな、この色情狂邪妖精め!」
「そんな怒っちゃいやーん、ネクロフィリア!」
「それ以上変態に構わない方がいいですよ、ミラドールさん。さっき自分でもそう言ってたじゃないですか」
「むぅ……確かにその通りだった」
シグマートの冷静な静止によって、ミラドールはようやく矛を収めた。
「ところでさっきから黙ったままだけど、あなたは何か気づかなかったの、テレミン?」
「おおおおおおおおおおおおおおおしっこぉぉぉぉーっ!」
「あら、そうだったわね。現在使い物にならないんだった」
チッとルセフィが衣擦れよりも小さな音で舌打ちしたが、あいにく洞窟の反響のせいでよく聞こえたため、パーティーにかすかに緊張が走り、皆居住まいを正した。
「下等種族ドモ、口ヲ慎メ。死者タチノ前ダゾ」
「死者? 別にここにはゾンビ兵はいませんけど……って、これは!?」
案内人の忠告に釣られて濡れたようにほのかに青白く光る進行方向に目をやったシグマートは、驚きと恐怖が相半ばする表情で叫んだ。




