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カルテ468 エターナル・エンペラー(後編) その36

「これは私の勘だけど、あのホンダって奇妙なお医者さんは、誰か親しい人を亡くしたことがあるんじゃないかしら。だからあんな言い方だったけれど、あなたに自分の故郷に帰りなさいって勧めたのはきっと本心だと思うの。あなたに死んで欲しくなかったから」


「ええっ、どうしてそんなことがわかるんだい、ラベルフィーユ!?」


「あなたはさっき怒っていたせいで気づかなかったかもしれないけれど、入ってすぐのカウンターのところに、女の子のお人形が飾ってあったのよ。フリルのいっぱいついた可愛い赤いドレスを着た、赤い髪の毛の素敵なお人形だったけれど、かなりボロボロであちこちほつれも出来ていたわ。よっぽど長いこと遊びに使われていた、宝物のような存在だったんでしょうね」


「そ、そうだったのか……まったくわからなかった……」


 ラミアンは己の観察眼の無さを嘆くも、心は意外の念にノックアウトされていた。あの男が人形遊びなんぞするはずがないし、ということは……


「まず間違いなく、小さな女の子が持ち主だったんでしょうね。それを彼は大事にとっておいた」


「奴に娘がいたっていうのか!?」


「まあ、別にいてもおかしくない年齢っぽかったけど……ちょっとした謎よね」


「ひょっとして、あんなふざけた男にも人が聞いたら落涙するような悲しい過去があったっていうのか?」


「ま、あくまで私の推測に過ぎないけどね」


 春風に吹かれながらの彼らの会話は、意外にも本多医院五千年間最大の謎の核心に最も肉迫していたのだが、神ならぬ身の二人には知る由もなかった。


「風が強くなってきたわね……さっ、早く家に戻ってそのお薬を飲みましょう。美味しいお茶を入れてあげるから……って何してるの、ラミアン!?」


 舞台を降りる梯子の方に歩きかけていたラベルフィーユは、振り向きざまに貰ったばかりのビタミン剤を数粒取り出して威勢よく空中にばら撒くラミアンの姿を目撃し、一瞬本多の毒気に当てられて正気を失ったのかと疑った。


「いや、これはあの麦わら帽子の女の人への手向けさ。きっと彼女の導きで白亜の建物が出現し、僕の病気の答えがわかったんだよ。だからせめてものお礼におすそ分けしないといけないって気分になったんだよ」


「そうね……あの人も、きっと天国に行けるといいわね……」


「そして悪いけど、家に帰る前に絶対寄るべきところがあるんだ。つき合ってくれるね、ラベルフィーユ」


「わかったわ。あそこね、ラミアン」


 彼女は小さくうなずいた。いつの間にか空は夕焼けの色が濃くなり、雲間からは天への階段のごとく斜光が降り注いでいた。二人は朱金色に染まる豪華絢爛な花弁の嵐に包まれ、哀れな魂の安寧を願った。

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