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カルテ466 エターナル・エンペラー(後編) その34

「いえ、僕がすごいんじゃなくて、著者のメイロン博士っていう博物学者がすごい物知りなんですけどね。動植物の調査に飽き足らず、獣人や魔獣の研究にまで手を染め、挙句の果てには人外と化し、今ではガウトニル山脈のどこかに隠れ住んでいるなんてまことしやかに言われていますけどね。もしいつか運よく会えたら、僕の持っている本に絶対サインしてもらうつもりです」


 テレミンはザイザル共和国の首都、学問の都ロラメットの裏路地で今は亡き呑んだくれで食い逃げ犯の父親を介抱しながらそう語ったことを懐かしく回顧した。


(もう間違いない、こいつらゾンビを生み出し操作しているのは山の地下深くに潜んで隠遁しているメイロン博士その人だ! その証拠にこの本を持ち出して一発叫んだだけでこいつらの動きが糸の切れた操り人形のように止まった! 今こそ宿願を果たすべき時が来たんだ!)


 静止したままのゾンビの群れとテレミン一行が沈黙したまま対峙することしばし、洞窟の奥から風が吹いた。この広々とした空間から先に伸びる唯一の出口からだ。風と共にコツコツという小さな音が徐々に迫ってくる。


「何かが近づいてきます……! 生者でない何かが!」


 全神経を集中させたダオニールが囁き声で皆に警告を鳴らす。一行は冷や汗を流しながら、永劫にも感じる長い長い数秒間を過ごし、ホストがやって来るのを辛抱強く待った。


「オマエ達カ、我ガ主ニ用事ガアルノハ」


 闇の中から現れたものは、氷の中から抜け出してきたような目の覚めるほど青い色のローブを目深くかぶり、素顔を隠していた。その話し方はお世辞にも人間的とは言えず、風が気まぐれに吹き鳴らす折れた木の枝同士が打ち合う音のようだった。


「ぬ……主とはメイロン博士なんでしょうか!?」


 皆を代表してテレミンが謎の人物に応対する。勇気を振り絞ってはいたが足が緊張で震えていた。


「サッキオ前自身ガソウ言ッタハズダガ? ダカラ私ガワザワザ出迎エニ来タ。光栄ニ思ウガヨイ、愚カナ人間ドモ」


「あら、お生憎様、あたしは人間なんかじゃないわよー。んもー、失礼しちゃうわねー、ねー、同族のミラちゃーん?」


「お前に同族呼ばわりされるのは心外だが、確かに私も違うな」


「私もそうよ。もっともちょっと前までは人間だったけど……」


「おっと、小生も人間スタイルにはなれますが、誇り高き人狼族ですぞ」


 急にギャラリーたちがわいのわいのとうるさくなってきた。

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