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カルテ463 エターナル・エンペラー(後編) その31

「多分だけど、アロフト村長は以前あの麦わら帽子の女性と恋人同士だったんじゃないかと思うんだ。でも、周囲から反対され、別れるように言われたんじゃないかと僕は考える。何故なら彼女は恋愛の儚さについて語っていたから」


「で、でもそんな話、聞いたことないわ……」


 ラベルフィーユはまるで見知らぬ人を目にしたような表情で怖々とラミアンの様子を伺っていた。


「おそらく、とても辛い過去なので口に出したくなかったんだろう。だけど彼は僕とラベルフィーユが一緒にいるのを見る時、いつも岩のようにけわしい顔をしていた。きっと忘れることが出来なかったからだ。推測するに、彼女は僕と同じように何らかの事故でこの村にかくまわれ、自然と村長と恋仲になったけれど、しばらく暮らしているうちに今ホンダ先生が教えてくれた悪性貧血になって、還らぬ人となったんだろう、残念ながら」


 そこで彼は口をつぐむと黙祷するように両眼も閉ざし、あの夏の日に金の蝶が舞う川原で彼女が突如突き出してみせた血のごとく赤い舌の像をまぶたの下にはっきりと結んだ。あれこそが悪性貧血の三大症状の一つ、ハンターの舌炎だったのだ。


「じゃ、じゃあ、あの人間の女性は……」


 元から白かったラベルフィーユの皮膚は、今や漂白したての羊皮紙だ。


「ああ、まず間違いなく人外の類いだ。さっき彼女が消滅した後、黄金の蝶が飛んでいるのをこの目で見た。以前川原で出会った時もそうだった。あの蝶が人間やエルフなどの生まれ変わりって説は多分本当だったんだろう。詳しいことは僕にもわからないけれど」


「そんな……どうして……」


「どうして死後に化けて現れたかって?彼女は答えを探しているって僕に語った。それはどういうことかというと、『何故自分はエルフの里に来て5年後に病気になって死んだのか?』っていう疑問に対するものだったんだ。死の床の彼女は白亜の建物の顕現を神に祈ったけれど望みが叶うことは遂になかった。だから僕に託したんだ」


「……」


 ラベルフィーユは今や返事をする元気もなく、うつむき声を出さずにすすり泣いていた。心根の優しい彼女には、女性の悲劇が我がことのように感じられたのだろう。診察室内に厳粛な沈黙が落ちた。

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